【中島輝士 怪物テルシー物語(59)】プロに入って大きな期待を受け最初の3年ほどを過ごしました。いろんな方々が気にかけてくれて、貴重な体験もさせてもらいました。それぞれにタイプも違えば考え方も違うものですし、バッティングには正解はないと思うのでアドバイスを生かすことが難しかったですけどね。

 こうすれば結果が出るという保証はどこにもないわけです。成功したからといって同じことをやり続けても、いい結果が出続けるという保証もありません。逆に言えば結果が出た打ち方が正解なのかもしれません。

 自分自身が持っているもの、誰がなんと言おうとこれだけは変えないというものを持っていないといけない部分も必要だと思います。結果を残してきた先人たちの言葉も絶対ではなく、自分自身の責任で自分に合うものだけを取り入れる。今は共感できなくても、あるレベルになれば気付けることだってありますから、引き出しは増やしておく。現役の時にそういうことに気付くことは難しいとは思うんですけどね。

 私は2年目、3年目の頃ですかね。日本ハムの打撃コーチだった近藤和彦さんからの特別な計らいで、中日時代の落合博満さんからマンツーマン指導を2年連続で受けたことがあります。落合さんが37歳くらいの頃です。

 沖縄キャンプ中に名護まで来てくださって、エアドームの中で極秘でマンツーマン指導してくださいました。エアドームというのはビニールで加工したような巨大な帆布製のインフレータブルドームで、空気で膨らませた巨大な室内練習場のようなイメージです。昔の名護の施設には雨天練習場が完備されてなかったので、そういう練習設備があったんです。

 外から中が見えないので好都合でもありました。近藤コーチが私を期待の星と見てくれて、落合さんに依頼してくれたんです。ドームの中は湿気ムンムンで暑いんですよ。そんな中で落合さんは、汗びっしょりになりながら本当にたくさんのことを教えてくださいました。

 奇抜な練習法として有名だった落合さんの「正面打ち」というのを覚えていますかね。ホームプレートの真上でマウンドに向かい、バッティングマシンと正対。体の正面に向かって飛んでくる変化球をなぎ払うように打つ練習法です。

 当然ですが空振りすれば体にボールが直撃します。ケガと隣り合わせの恐怖感を克服しつつコンパクトに確実にミートする。これも落合さんは目の前で実演してくださいました。どんな練習にしても落合さんは本当に、軽く打つんだもの。当時の私には分からないですよ。落合さんと近藤さんの関係性があったからこそ実現したぜいたくな時間でした。

 そういえば落合さんはオープン戦で「今日は立つだけ」と宣言し、打席で一度もバットを振ることなく“予告見逃し三振”でベンチに帰ってくることもありましたよね。投手の試合スピードの生きた球を見つめることで、目慣らし、ストライクゾーンの確認をしていたんでしょうけど、そんなことをできる選手は今後も出てこないでしょうね。