羽生結弦にとって「金メダル」より〝熱い〟もの イチロー、内村航平と同じ「前人未到」の挑戦

2021年07月10日 05時15分

羽生結弦には異次元の世界が見えている(代表撮影)
羽生結弦には異次元の世界が見えている(代表撮影)

 フィギュアスケート男子で五輪2連覇を達成した羽生結弦(26=ANA)が〝超人〟だからこその野望に燃えている。アイスショー「ドリーム・オン・アイス」(9日、神奈川・KOSE新横浜スケートセンター)で名演技を披露した絶対王者は、2022年北京五輪について「熱量はない」と衝撃発言。その上で改めてクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)へのあくなき挑戦を表明した。もはや「金メダル」「3連覇」は眼中にないというのだが…その真意に迫った。

 この日は北京五輪イヤーの主役たちが銀盤に集結したが、ファンの視線を独占したのは羽生だった。公演のラスト、会場に流された自身の「最大の夢に向かって」という肉声とともに登場。「X JAPAN」のボーカル・Toshlの「マスカレイド」に乗って華麗なスケーティングを見せると、拍手が鳴りやまなかった。

 公演後には、人類初となる着氷を目指す、4回転半ジャンプの仕上がり具合について言及。「そこまで練習はできていません」と言いつつも「一から4回転半に向けて(体を)つくり直す作業ができたと思っています。これから本格的に練習していきたい」と今シーズン中の成功を目標に掲げた。さらに、この日も「試合の機会がないと4回転半を決めても意味がない」と強調した。

 今季はGPシリーズ第4戦のNHK杯(11月12日開幕、東京)、第6戦のロシア杯(同26日開幕、ソチ)に出場。その後は満を持して北京五輪へ…と普通なら話すところだが「平昌シーズンみたいに絶対に金メダルを取りたいという気持ちは特にありません。平昌、ソチの時のような〝熱量〟はないと思っています」と言い切った。あくまで前人未到のジャンプをゴールに据え、金メダルについては「まあ、道の中にあるのであれば」とまで言うほどだ。

 なぜ金メダル、五輪3連覇よりも4回転半なのか。今年4月、体操界のキング・内村航平(32=ジョイカル)は「五輪を2連覇している同じ立場として、もう結果じゃないところに目を向け、新しいことにチャレンジすることでしか自分が満足できない」と互いの共通点を挙げていた。

 一方で羽生は米大リーグで活躍したイチロー氏が19年3月に引退した際に「語り出したら止まらないんですけど」と少年のような笑みを浮かべ「ホントにいろんな言葉で支えられましたし、影響を受けました」としみじみ語っている。その後も〝イチロー語録〟をチェックしており、数々の金字塔を打ち立てたイチロー氏や内村と同様に、「前人未到」にフォーカスするようになった。「金メダルへの熱量がない」はまさに超一流がたどり着く宿命的な境地に達したと言えるのだ。

 もう一つ、金メダルより4回転半を掲げる真意は「採点競技」への限界だろう。見る者を魅了する羽生の演技は「点数」を超越した美学があるが、その価値に気づかない審判から〝低得点〟をつけられる傾向が慢性的にある。実際にスケート関係者からも指摘の声が上がっている。もちろん本人は一切、言葉には出さないが、「点数争い」に見切りをつけ、まだ見ぬロマンを追い求めている可能性もある。

 今後は日本を拠点にして昨年同様、たった一人で練習を積む。誰もが金メダルを目指す夢舞台でも、羽生は一人だけ別次元の挑戦に突き進んでいく。

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