スクリーンに映るはずだったヒーローより先に、オリオールズのナインは残酷な現実を突きつけられた。オリオールズは3日(日本時間4日)にアドリー・ラッチマン捕手(28)を同じア・リーグ東地区の宿敵レッドソックスへ放出した。2019年ドラフト全体1位で入団し、球宴に3度選出された看板選手の電撃移籍。今季は左足首の炎症や脳振とう、左手首の炎症で離脱を重ねながらも67試合で打率2割5分1厘、8本塁打、47打点を記録していただけに、チーム内を揺らした衝撃は数字以上に大きかった。

 レッドソックスはラッチマンと捕手のジェイク・ロジャース、金銭を獲得。オリオールズは捕手のカルロス・ナルバエスと投手の有望株2人、外野手の有望株1人、その後日に指名選手または金銭を受け取ることになった。ラッチマンは2027年まで球団保有権があるため、単なる短期補強ではない。同地区間の大型取引は、ボストンの勝負手とオリオールズの非情な決断を同時に映したと言える。

 一方でオリオールズの地元有力紙「ボルチモア・サン」によれば、その知らせが飛び込んだのは、ラッチマンが仲間たちと大ヒット中の映画「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」を見ようと映画館へ入った直後だったという。グンナー・ヘンダーソン、ライアン・マウントキャッスル、コルトン・カウザーと過ごしていたタイミングでラッチマンの移籍を知らせる電話が鳴り、ボストン行きを告げられたという。娯楽の時間が一瞬で別れの場へ暗転するという、まさにジェットコースターのような急展開だった。

 ヘンダーソンは涙をこらえながら「僕にとって簡単なことじゃない。7年間一緒にやってきた人だから」と吐露。「今日はこのことについて話せない。みんな、ごめん」と言葉を詰まらせた。

 その場にいたカウザーも、ラッチマンの表情を見て異変を察したと説明。「最初のショックは見ていてつらかった」と振り返り、抱きしめて「そばにいる。愛している」と伝えることしかできなかったと明かした。

 若手内野手のジャクソン・ホリデーは「野球ビジネスでは避けられない」と現実を受け止めながらも、「残念ながら、僕たちは彼に勝たなければならない」と前を向いた。長年の盟友が突然、同地区で何度も顔を合わせる敵へ――。ハリウッド映画顔負けのどんでん返しは、クラブハウスに深い喪失感と新たな緊張を残した。