一瞬耳を疑ったが、長嶋茂雄さんは確実にこう声を張り上げていた。「さあ、おはよう!」。東スポ記者時代の4年間、巨人を担当していた際、私はこの「ミスター語」が一番大好きだった。

 普通ならば「おはよう」のあいさつに「さあ、」を付ける人はまずいない…。というか、世界中探しても見当たらないだろう。英語ならレッツ・モーニング!。たまにミーティングでもナインの前で使っていたとも聞くが、キャンプ中などわれわれマスコミにも例のカン高い声で、披露してくれたことは本当に面白くて…。忘れられない。

「失敗は成功のマザー」など長嶋さんのユニークな名語録、逸話は山ほどあるだろうが、東スポにとっても痛快な人だった。他紙が書かないスキャンダルや裏話を信条とする東スポの場合、取材相手に名刺を差し出すと「変な記事書かないで」「お手柔らかに」という反応が大抵だが、長嶋さんだけは「どんと来い。望むところですよ」、コレだった。

 手前みそは百も承知だが、長嶋さんは東スポが好きだった…と勝手に思っている。私が巨人担当を終え、関西に転勤する際には「日本中の東スポ読者が記事を楽しみにしてるんだから、どこに行っても読者を増やして〝世界一のイエローペーパー〟を目指しなさい」「仕事は陽気にやること。そうすればミスしても誰かが助けてくれる。他力本願ではないよ。それもアンタの力。俺なんかもそれでやれたみたいなもんだ、へへへ(笑い)」と「ミスター語」で励まされた。

 それにしても〝イエローペーパー〟とは、使い方が…。いったいほめられているのか、そうでないのか当時はわからなかった。だが、新聞業界が未曾有の危機に瀕している今、改めて読者のためにも痛快で面白い記事が必要だと感じている。

 長嶋さんは2004年3月に脳梗塞で倒れられた。個人的な話になるが、私も2019年に同じ脳梗塞を50歳前半で患い、入院生活を余儀なくされた。当時のリハビリのトレーナーからは「この道具はあの長嶋さんも使っていたのと同じ。だから頑張りなさい」と言われ社会復帰を目指していたのも、今思えば不思議な縁かもしれない。

 またお会いしたかった。「さあ、おはよう」がもう聞かれないのはさびしい…。

(97年~00年巨人担当・岩崎正範)