【橘高淳 審眼(33)】1998年7月31日の甲子園での出来事です。暑い夏の聖地で阪神―巨人の伝統の一戦が行われていました。両軍先発は阪神・藪恵壹、巨人・バルビーノ・ガルベスの両投手。好投手同士の投げ合いで投手戦が予想されましたが、意外にも阪神の圧倒的優位で試合は中盤へと進んでいきました。

 阪神が5―0と大量リードして試合は6回まで進みました。そこまで巨人・ガルベス投手は大豊泰昭選手に2打席連続本塁打を浴びるなどイライラが募った様子でした。

 6回の阪神の攻撃は坪井智哉選手から。カウント1ボール2ストライクの4球目、ガルベス投手の投じた内角への直球はボールでした。この試合の球審を務めていたのは私です。試合後に当該のプレーを映像で確認もしていますが、ボールで間違いないと思います。あれを逆にストライクと言えば、坪井選手がひっくり返る結果になったでしょう。

 この際、ガルベス投手は判定にあからさまに不満のある態度を示しました。そして、次の5球目です。同じようなコースから入ってきたスライダーを、坪井選手は右越え本塁打としてしまいます。この時点で阪神が6―0とリードです。長嶋監督は投手交代を判断しました。

 投手交代のため、マウンドに内野陣や当時の池谷投手コーチらが集まります。それでもガルベス投手は審判への不満をあらわにし、マウンドから降りようとしませんでした。たまらず、ベンチから長嶋監督や堀内ヘッドコーチらが出てきて、ガルベスにベンチへ戻るよう促しました。

 あの長嶋監督も怒って、強制的にベンチに戻そうとしていた途中でした。三塁ベンチ前からマウンド方向を振り返ったガルベス投手は、あろうことか審判団に向かって手にしていたボールを投げつけてきました。

 私に向けてボールを投げてきたというよりも、審判に向かってボールを投げてきたということはすぐに分かりました。まず、審判である前に人間です。こういう行為に関しては、それはもう瞬間的に怒りの感情が湧いてしまいます。

 私も三塁ベンチに駆け出し、長嶋監督の制止も振り切って、ガルベス投手に向けて走り寄ってしまいました。これにガルベスも応戦し、三塁ベンチ前は乱闘騒ぎの状態です。ガルベス投手を制止するため、巻き込まれた吉原捕手も口から血を流し負傷する事態となりました。

 その結果、ガルベス投手はシーズンの残り試合全てで出場停止です。球団からは4000万円もの罰金を科せられることとなりました。

 ガルベス投手はもともと、ストライク、ボールの判定に不満を表すタイプの投手ではありました。私が二塁塁審として試合を見ている時、同投手の球筋を真後ろから見ていましたが、明らかにボールであろう投球にまでクレームをつける場面もありました。それでは自分が損をすることを、仲間がもっと教え込む必要がありましたね。

ガルベス問題の責任を取って丸刈り姿になった巨人・長嶋茂雄監督(当時)
ガルベス問題の責任を取って丸刈り姿になった巨人・長嶋茂雄監督(当時)

 私とてあの事件の後、もっと冷静になるようにと上司から注意を受けました。この問題を受け後日、長嶋監督が丸刈りをされたことには驚きを隠せませんでした。