【橘高淳 審眼(31)】現在、いろいろな映像配信サイトなどで昔のプロ野球の映像も見ることが可能です。テレビ局が長年の歴史で残した記録映像を掘り起こすとなると大変ですが、今は個人がパソコンを開けば無料で閲覧できる時代です。これはあまり言及すると著作権の問題にもなりますので、詳しくは語りませんが…。今回はクロスプレーでの判定へのクレームのお話をさせていただきます。

 あれは1996年9月4日の広島―阪神戦(広島市民球場)での試合でした。カープは前半戦から快調で首位を走っていましたが、巨人から追い上げられるという重圧の中でプレーしていたはずです。広島が1点リードの6回裏でした。先頭の広島・野村謙二郎選手が二遊間に放ったゴロを阪神・遊撃手の久慈照嘉選手がグラブを伸ばしてキャッチ。一塁へ送球し、アウトとファインプレーを見せました。

 当時、故障を押してスタメン出場していた野村選手は一塁へヘッドスライディング。懸命なプレーでしたが、一塁塁審だった私はアウトの判定を下しました。これは私にとっては自信を持って下した判定であり、その後に映像で確認してもアウトと確信できるプレーでした。

 しかし一塁ベース手前でうなだれる野村選手の横を、ものすごい勢いでカープの三村敏之監督が走り抜け、私の元へ目がけてきました。私は蹴られた記憶は「?」なんですが、映像を確認するとそれは猛抗議で胸ぐらをつかまれ、左足でキックを浴びせられるなど、なかなかのものでした。

 私はここで三村監督に退場を宣告しました。すると、今度は遅れたタイミングで野村選手も私を突き飛ばしにきたわけです。何かの言葉を聞き違えたようで、態度が急変したので驚きました。これで暴力行為により、2人退場です。

 その日の夜、いとこから電話がかかってきまして「あんなの普通にアウトなのに抗議されたの?」と言われましたね。当時、テレビ朝日のニュースステーションで久米宏さんが試合当日に何かを言及されたそうですが、翌日の放送では「昨日の判定はアウトでした。すいません」と釈明されたそうなんです。当時は、その放送を見ていませんでしたが…。

 ちなみにこの試合は広島が初回に4点、7回に3点を入れ勝利しています。ただ、6回の時点ではまだ4―3と僅差でした。この日の時点では首位だったそうです。

 あのシーズンは長嶋巨人が「メークドラマ」で広島との11・5ゲーム差を逆転し、優勝した年です。三村監督もイライラしていたんでしょうか。広島と巨人が11ゲーム差あった7月9日の直接対決(札幌円山球場)で、巨人が9者連続安打などで一挙7点を奪い勝利した試合がありました。ここから巨人の快進撃が始まりました。

 その後も、どんどん差を詰めてきた巨人はついに100試合目で首位。10月6日の中日戦で巨人が勝利し、リーグ優勝が決定しました。長嶋茂雄さんの「メークドラマ」という言葉はこの年の新語・流行語大賞の年間大賞にも選出されました。ミスタープロ野球といわれる人物の言葉の強さに感心します。