【橘高淳 審眼(34)】近年の野球は選手たちの日頃の努力の成果もあり、レベルがぐんぐんと上がってきています。投手の球速も30年前からすれば、平均値もかなり高くなっているんじゃないでしょうか。受ける捕手もフレーミングの技術が向上しています。

 投手からすれば際どいボールが全てストライクに見えてしまうんじゃないかというくらい、見事なフレーミングをする捕手もいますね。その繊細かつ高度なテクニックを、今は映像でも確認できる時代になりました。
 我々は審判員として過ごした時代のほとんどを、リプレー検証なしの前提で試合を裁いてきました。審判が下した裁定が最終決定であるとルールに明記されている以上、覆せないことに重圧や苦しさもありましたが、練習と経験を重ねて準備を怠らず試合に臨んできたつもりです。

 横から見ている両軍ベンチから飛んでくる「今のストライクじゃないか?」といった声出しは許容範囲でしょう。ベンチ内からプレーを見守る監督が微妙な判定に関して「ルールの運用が間違っていないか確認してください」というような抗議や異議申し立てをする分には、私はいいと思っています。

 語弊はありますが、私たちだっていくつもミスがあり、いろんな経験をしてきています。そこからさまざまな経験を得て、複雑なプレーの判断やボークの宣告、退場の宣告など場数を踏んでいくことになります。そういった局面を経て、さらに高度な技術が必要とされる現場で落ち着いてルールを運用できるように成長していきます。

 投手が投げてくる軌道の周囲には打者がいて捕手がいて、プレーごとに状況が変化していきます。バントや捕手前の打球、自打球などは捕手の陰に隠れて見づらい場合もあります。そういう状況の中で審判員は各自で工夫しながら動いて、ポジショニングを考えて最善の判定を下す努力をしています。

 1999年6月1日の中日―巨人(ナゴヤドーム)でこんなプレーがありました。3―4で中日が1点ビハインドの6回無死満塁の場面で打席に立っていたのは渡辺博幸選手。スイングしたバットから放たれた打球は、左足に当たったかなという状況で捕手前に転がりました。

 私は足には当たっていないと判定。そのままインプレーとなり、捕手が打球を処理して二塁に送球して併殺打となりました。この判定に中日の星野仙一監督が7分間にわたる猛抗議。判定は変わらず、試合はそのまま巨人が勝利したと記憶しています。

 あの満塁の場面で星野監督が抗議したのは無理もないでしょう。それくらい微妙なプレーです。本来、打者本人が最も分かるはずなのですが、これも主観でしかありません。試合後も当時の映像でははっきりした判断ができませんでした。

 私がこの判定で自打球ではなくフェアと判定した理由は、打者走者の渡辺選手が一塁に向けて1歩スタートを切ったという事実があったからです。そのあたりはこちらも頭を回してます。救われたのはスポーツニュースで、ある解説者が発した「一塁に走り出してますからねえ。フェアでしょ」という言葉でした。