【橘高淳 審眼(35)】前回からのおさらいになりますが、1999年6月1日の中日―巨人(ナゴヤドーム)で起こったプレーの検証を続けます。3―4で中日が1点ビハインドの6回無死満塁で、打席には渡辺博幸選手が立っていました。そこで渡辺選手の打球が左の足元に落ち、フェアゾーンに残りました。

 左足に当たった自打球なのか、当たらずフェアなのか。私の判定は左足に当たっていないのでフェア、インプレーというものでした。守備側の捕手が打球を処理して二塁、一塁と転送されて併殺打となりました。この判定に中日の星野仙一監督が7分間にわたる猛抗議を行いました。

 この判定で、私が自打球ではなくフェアと判断したのには理由があります。それは打者走者の渡辺選手が一塁に向けてスタートを1歩切ったという事実があったからです。そのあたりはこちらも頭を回してます。もし打球が渡辺選手の左足に直接当たっていれば、リアクションも変わってくるはずです。

 私は打者走者が一塁に走り出すしぐさなど、もろもろの状況を見た上で一呼吸を置いてからフェアと判定を出しているわけです。その後、映像を見ましたけど、実際にはどうなのか分かりませんでした。プロの投手が投げた投球をプロの打者が打ちに出て、足元に打球が飛ぶ状況を人間の目で完璧に判断することは難しいでしょう。

 打者本人にしか分からない感覚もあったかもしれませんが、それを聞いたり確認した上で判定の基準にすることはできません。スパイクの革一枚にボールが直接かすったのか、バウンドしてからかすったのかなど、これは検証のしようもないでしょう。

 審判も攻撃側も守備側もそれぞれに自分の立場で転がり始めたボールを見ています。プレーとしては中日・星野監督が抗議に来てもおかしくないプレーだったと思います。1点差の6回ですから、まだまだ勝つチャンスがあるわけです。自打球でファウルと判定され、その後の結果がどうなったかは分からないですが、監督として抗議も何もしないというのもチームの士気に影響するかもしれません。

 星野さんといえば、好プレー珍プレーなどで乱闘の場面や猛抗議の場面が印象的ですね。ただ、私がそうした印象からご本人に対して特別な感情を持っていたということはありません。チームの将として、選手を鼓舞するためにあえて激しく抗議するということもあったでしょう。そのあたりの立場はどの監督に対しても理解していたつもりです。

 ただ、当時のドラゴンズは星野監督の周囲を取り巻くコーチ、選手らが一個連隊で抗議に押し寄せてくることが多く、怖さは感じていました。相手は複数人で向かってくる状況で、こちらは審判員1人が標的になっているというような図式です。

 監督や選手、審判とそれぞれに立場は違いますし、自分たちが不利になってしまう判定に激高することがあってもそれは人間です。しかし、不当な暴力はあってはならないと考えます。次回はそのあたりについてお話しさせていただきたいと思います。