【橘高淳 審眼(36)】球場に足を運ぶ、あるいはテレビでプロ野球を観戦したことがあるファンの中には、乱闘騒ぎや暴力行為による退場シーンに遭遇された方もいるかもしれません。私自身、審判員としてその渦中にいたことは1度や2度ではありません。その中でも判定を巡っての抗議から、私自身がケガをしてしまうという恐ろしい経験もありました。

 2000年5月6日、中日―横浜戦(ナゴヤドーム)でのことでした。7回の中日の攻撃で打者は前監督でもある立浪和義選手でした。私は真ん中低めの球をストライクと判定し結果は見逃し三振です。ただ、この判定を不服として立浪選手から抗議を受け、私の胸を突くという行為があったため、暴力行為で退場を宣告しました。

 すると、その直後に星野仙一監督が私に体当たりしてきたかと思うと、中日ベンチから選手やコーチが一斉に私の元に詰め寄ってくる事態となりました。もうもみくちゃです。

 よく乱闘騒ぎと表現されていますが、それは間違いです。一方的な暴力にさらされたというのが現実です。この騒ぎの際、右後ろの位置から脇腹付近に強い衝撃を感じました。これはヒザ蹴りでも食らったかなと思い、その方向に振り返るとプレーとは無関係の大西崇之選手がいるじゃないですか。こうなると私ももう感情的になってしまいます。

 大西選手を追いかけようとしましたが、他の選手たちが「すいません。こいつアホなんで、ホンマすいません」と制止してきます。それでも大西選手自身は「何じゃコラ、オッサン」という状態で、罵声の応酬になってしまいました。それを間近で目撃していたドラゴンズのボールガールの子が、恐怖で涙していたことを覚えています。

 この場面の映像は何度も何度も確認しました。ストライクかボールの判定でいいますと、何度確認してもストライクでした。そして、右後ろからヒザ蹴りを食らったかと思っていた攻撃は、誰かのヒザ蹴りではなく、大西選手からのボディーブローでした。その映像を確認して再び「グーで殴っとるやないか」と怒りが込み上げてきました。しかし、怒りの前に痛みも激しく病院で診察を受けると右の肋骨を骨折ということでした。こうなると、もはや事件です。

 最終的には星野監督、立浪、大西の両選手が退場処分。星野監督は5日間の出場停止と50万円の罰金、立浪選手は5日間、大西選手は10日間の出場停止と10万円の罰金が科せられることになりました。

 そして、そこからです。3人に対し、それぞれ別地域に住む複数の一般の方が傷害罪で名古屋地方検察庁に刑事告発したんです。ただ、私本人から被害届が出された事実もないため、書類送検された後に起訴猶予処分となりました。

 当時は中日ドラゴンズのオーナー企業である中日新聞さんが大変やったらしいですね。新聞社が親会社のチームが傷害事件となると穏やかではない。私もその後はしばらく欠場ということになりましたからね。右の肋骨は2か所折れてました。あの騒ぎがなければ、私の出場試合数は3020試合くらいになっていたかもしれません。