球審の一声が、いよいよ機械に照らされる時代へ入るのか。「ピッチコム」「ピッチクロック」に続き、NPBで次の焦点に浮上しつつあるのが「ABS(自動ボール・ストライク判定システム)」だ。MLBの実運用と韓国KBOの先行改革は、日本球界に審判をどう守るかという宿題も突きつけている。
日本野球機構(NPB)と日本プロ野球選手会が4月20日に行った事務折衝を機に、球界のハイテク化を巡る議論が再燃している。サイン伝達機器「ピッチコム」や投球間隔を制限する「ピッチクロック」は、国際基準への対応という意味でも避けて通れないテーマだが、その先に見えてくるのが「ストライク、ボール」をどう裁くかという問題だ。
MLBでは、今季からABSチャレンジシステムの実運用が進んでいる。各チームは1試合2度まで投手、捕手、打者が球審の判定に異議を申し立てることができ、成功すれば権利は保持される。すべてを機械任せにせず、人間の判定を残しながら要所だけを確認する〝折衷型〟。開幕から約2か月が経過し、実際に判定が覆る場面も出ている。
一方、お隣の韓国KBOはさらに先を行く。2024年から一軍公式戦でABSを採用し、全投球のストライク、ボールをトラッキングシステムが判定。球審はイヤホンで伝えられた結果をコールする。米国が人間の余地を残す方式なら、韓国は判定の均質化をより強く押し出した形だ。
NPBにも技術的な土台はある。2024年から12球団の一軍本拠地には光学トラッキングシステム「ホークアイ」が導入され、球速、軌道、回転数、打球速度などを可視化できる環境が整っている。投球がゾーンからどれだけ外れていたかをほぼ即時に把握できるとの見方もあり、運用ルールさえ固まれば、議論は一気に現実味を帯びる。
ただし、ABSは単なる便利ツールではない。球審はこれまで以上に1球ごとの判定を数字で問われる一方、機械が最終的な根拠を示すことで、過度な批判やSNS上の誹謗中傷から守られる側面もある。韓国ではABS導入後、審判が試合後に個別の判定責任を過度に背負わされる場面が減り、職務上の精神的負担が軽くなったとの声もあるという。
4月20日の事務折衝では、選手会長のソフトバンク・近藤健介外野手(32)が審判の待遇改善や評価制度にも言及。「野球のレベルを上げるにも、審判の方の協力も必要」と語った。制度改革は選手のためだけではなく、試合を裁く側の環境整備とも表裏一体になっている。
国際ルールへの対応、試合時間の短縮、判定精度の向上。そして審判という職業の安全をどう担保するか。NPBが向き合うべき論点は、もはや「機械を入れるかどうか」だけではない。ロボット審判の波は、グラウンドの空気だけでなく、球界の働き方まで変えようとしている。












