【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】ロッカーに向かって座り、ノートに何かを熱心に書き込むマリナーズの選手がいた。ワイヤレスイヤホンをしており、それなりに近づいても気が付かない集中ぶり。最初は日記をつけているのかと思ったが、時折書き込んでは手を止めたり、考え事をしているようだった。
邪魔はしたくないが、クラブハウスで許されている取材時間が残りわずか。あきらめるか…ときびすを返そうとした時、フリオ・ロドリゲスがノートを閉じ、ペンを置いて顔を上げた。少し驚いた顔をしたが、すぐに「ニカッ」と、なんともあどけないフリオスマイル(この人の人気の理由の一つでもあると思う)で応じてくれた。
「オーディオブックを聴いて、ノートを取っていたんだ。『アトミック・ハビッツ』(邦題=ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣)。日々の習慣やルーティンのつくり方を教えてくれる本だよ。実際に本で読んでいたんだけど、読むのがなかなか続かなくて。最近になってオーディオブックで聴きながらノートを取る方法が自分に合っていると発見して、本に戻ってきたんだ」
聞けば2021年のオフシーズンにタンパで購入。自分に必要なものを探していて偶然に見つけ、気がついたら読み進めていたという。
「その時は、より良い習慣をつくり、物を整理して自分のマインドをもっとクリアにしたい、ただ日々を過ごすのではなく、いろいろなことをオートマでいい状態にしたいと、参考になるものを探していたんだ。実際、いい習慣は野球にも生活にも、何にでも使えると思う。自分の状態を常に把握しておくことは、いつだっていいことでしょ?」
選手と話す時、できる限り先入観を持たないことを心がけているのだが、22歳のフリオが細やかなノートをつけるタイプとはまったくの予想外。彼をもっと知りたくなって探していたら、選手会のサイトでまだ2Aのマイナーリーグにいた2年前に答えているインタビューに遭遇した。
「自分は、地元の皆の生活のスタンダードを向上する助けがしたい。もっといいジムやスーパーマーケットをつくったり。自分にはおカネはいらない。人々がしっかり働いていい人生を送れるような場所をつくりたい」
ハイチ国境近く、ドミニカ共和国の小さな町ロマ・デ・カブレラ出身のフリオ。
「地元の子供たちは、野球のグラブさえも持ってないんだ。シンプルにおカネがないから。僕の両親はしっかりと学校へ行き、仕事(父は農業技術者、母は歯科医)があったけど、初めてのグラブは誰かが父にあげたお下がりだった。ドアを開け、人々の生活にインパクトを与えたい」
フリオは初めてのグラブを今でも大切に保管しているそうだ。今年1月には町に初めての救急車を寄付している。
フリオはノートに書いた内容は「ナイショ」と笑ったが、本の中で紹介されている「華氏32度(摂氏0度)ルール」という概念を教えてくれた。
「氷を(摂氏)マイナス3度の部屋に置いても何の変化もないけど、マイナス2度、マイナス1度と温度を上げていって、0度を超えた時、氷は溶け始める。つまり、小さなことから始めてすぐに変化は見えないかもしれないけど、時間の経過とともにその働きが積み重なり、変化が見られる閾値を超えることになる。でも変化が見られるようになるためには、十分に長く取り組み続ける必要がある。これはすごく野球にもつながるなって思ったんだ」
毎日1%ずつ改善をするだけで1年後には1・01の365乗で約37倍良くなっているそうだ。フリオと話した直後に購入した本の受け売りだが…。
☆フリオ・ロドリゲス 2000年12月29日生まれ。22歳。ドミニカ共和国出身。右投げ右打ちの外野手。190センチ、103キロ。17年にマリナーズと契約しプロ入り。21年の東京五輪にドミニカ共和国代表として出場。22年にメジャーデビュー。そのままレギュラーとして定着すると、球宴にも初出場。同年132試合で打率2割8分4厘、28本塁打、75打点、25盗塁と活躍し、新人王に輝いた。パワーだけでなく広角に打ち分ける能力も持ち、さらに強肩、俊足とあって、同年8月にはマリナーズと最大18年総額4億7000万ドル(約655億円)の契約を結んだ。












