【田畑一也 千載一遇~「野村再生工場の最高傑作」と呼ばれた男~(15)】プロ2年目の1993年、初の開幕一軍切符をつかんだ僕に、思いもよらぬ場面で初登板の機会がめぐってきました。4月11日、開幕2戦目で相手は西武。まだ屋根がつく前の西武球場が舞台でした。

 根本陸夫監督にとっての初陣で、古巣との“因縁の対決”でもあった前日の開幕戦は村田勝喜と井上祐二さんのリレーで7―4の快勝。2戦目は前年10勝の若田部健一が先発し、開幕2連勝に挑みました。しかし、頼みの若田部が5回途中4失点KO。2番手の下柳剛も四球で即交代となり、3番手でマウンドに上がったのです。

 5回一死一、三塁で、打席には初回に先制2ランを放っていた秋山幸二さん。ネクストバッターズサークルには前年までの7シーズンで通算222本塁打の清原和博さんが控えていました。1―4の劣勢ながら、まだ5回途中でプロ初登板。さすがに震えましたね。

 頭の中は真っ白。それでも捕手の吉永幸一郎のサインにうなずき、初球を投げ込むと、一塁方向から「クイックぐらいできんのか!」と怒号が飛んできました。声の主は現ソフトバンク監督の藤本博史さん。もう開き直るしかありません。140キロ台の直球で押し、何とか秋山さんを三邪飛、清原さんを左飛に料理。イニングまたぎとなった6回も石毛宏典さん、トレンティーノに連打を許しながら計1回2/3を無失点で切り抜けました。

 もう一つ忘れられないのが、プロ初先発となった6月13日のロッテ戦です。午後1時半開始で舞台は本拠地の福岡ドーム(現ペイペイドーム)。言い渡されたのは前日12日の試合中で、プロ12試合目の登板でしたが、やはり緊張しました。

 そんなドキドキの初先発を前に、ベンチで選手たちの中から心強い声が上がりました。声の主は藤本さん。「今日は初先発の田畑だから、絶対に打って勝たせよう!」。監督となった今も選手から慕われているのは、こういう気遣いができる人だからでしょう。

 試合は初回二死走者なしからマックスに先制ソロを被弾。4番のメル・ホールにも中前に運ばれるフラフラの立ち上がりでした。しかし、後続の初芝清さんを三振に仕留めて踏ん張ると、裏の攻撃で藤本さんが有言実行の一打を放ってくれたのです。相手先発の園川一美さんを攻め立て、一死満塁から走者一掃の逆転三塁打。勇気をもらった僕は2回から6回までスコアボードに「0」を刻みました。

 そして迎えた4―1の7回です。西村徳文さんの犠飛で2点差とされ、次打者は先制ソロを許しているマックス。緊張の初先発で103球を投げていっぱいいっぱいになっていた僕のリリーフとして登板したのが、前日の先発で116球を投げていた下柳剛でした。