世界中で活躍した“プロレスリング・マスター”武藤敬司は、いよいよ2月21日に東京ドームで引退試合を行う。本紙では11日付紙面から波瀾万丈の半生を振り返る連載「ゴールなきマラソン~武藤敬司の軌跡~」をスタート。大好評を呼んでいる。

 いよいよ希代の天才レスラーが輝かしいキャリアに幕を下ろす瞬間が近づいてきたが、その前には代理人を務める“魔界の住人”グレート・ムタがノア1月22日横浜アリーナでファイナルマッチを控える(ムタ、スティング、ダービー・アリン組対白使、AKIRA、丸藤正道組戦)。

 武藤もムタも名勝負は数えきれないが、忘れがたいのが全日本プロレスに移籍した後の2002年7月20日、日本武道館大会。武藤、ムタ、黒師無双の世界初の3変化が実現。3戦全勝で圧巻の存在感を見せつけたのだ。

黒師では拝み渡りを披露
黒師では拝み渡りを披露
素顔ではマスカラス(右から2人目)、ドス・カラスとトリオを結成
素顔ではマスカラス(右から2人目)、ドス・カラスとトリオを結成
ムタでは孤士に閃光魔術弾を見舞った
ムタでは孤士に閃光魔術弾を見舞った

 ムタは魔界の住人で邪悪の権化だが、黒師無双は武藤の第三人格で、天界に住んでいる聖人とされた。初登場はみちのくプロレス01年8月19日仙台大会(当時は黒使無双)。くしくも引退試合の相手で元WWE戦士の白使と組んで、ヒロ斎藤、後藤達俊組を一蹴している。この時は白使の得意技であるトップロープ拝み渡りを披露した。その白使がファイナルマッチの相手になるとは、やはりプロレス特有の「運命の糸」を感じざるを得ない。

 大会では黒師無双、武藤、そしてメインはムタの順番で登場。まさに天才によるワンマンショーに場内の歓声は大爆発した。本紙は大会の詳細を報じている。

「7・20武道館大会で実現した世界初の3変化ファーストマッチは黒師無双だ。荘厳なテーマ曲が流れて黒師が花道に姿を現すと、第2試合ながら会場は大きくどよめいた。圧倒的な存在感でリングを自分の色に染め上げた黒師は、ミニ武藤に扮したカズ・ハヤシに苦戦するも、最後は閃光魔術弾からの念仏パワーボムで息の根を止めた。休憩50分を挟んで黒師を昇天させて、第5試合で素顔に戻った武藤は、ミル・マスカラス、ドス・カラスの兄弟とドリームトリオを結成。マスカラスとはダブルフライングクロスチョップの夢の競演を見せて大観衆を熱狂させた。そしていよいよラスト。ヒザの暴発が心配される中、日本初登場の新生ムタは何事もなかったように不気味に姿を現した。頭巾を取ると場内が大きくどよめく。ムタのイメージをさらにグロテスクにしたニューバージョンに誰もがド肝を抜かれた。一瞬でファンの心臓をえぐった新生ムタは、愚零斗孤士(小島聡の化身)との化身対決でも完勝。毒霧の吹き合いを制して、最後は腕ひしぎ逆十字固めで孤士を魔界へ封印して葬り去った」

 まさに武藤のワンマンショーだった。黒師では拝み渡りを披露し、武藤では正統派ファイトを展開。ムタでは邪悪の限りを尽くした。大会翌日に武藤は「やり遂げた安堵感はあるけど、反省する部分もあったかな。でも楽しかったよ」と笑顔を見せていたが、3試合全部がメイン級の内容だった。こんなレスラーは二度と出ないだろう。

 ムタ、そして武藤。いずれもどんな内容になるのか全く想像がつかないものの、永遠に語り継がれる名勝負になることは間違いない。希代の名レスラーの最後の姿をしっかりと胸に焼きつけておきたい。(敬称略)