巻き返しへ重い一手を打った。広島は2日、下水流昂外野手(31)と楽天・三好匠内野手(26)のトレード成立を発表。人望の厚かったクラッチヒッターの電撃放出に赤ヘルナインは揺れた。ただ今回の決断に関してはフロントも批判覚悟の上という。“2人のチョーノ”へ、熱い思いは伝わるか――。

 昨夏、宿敵巨人を沈める劇的な延長サヨナラ弾を放ってスポットライトを浴びた男は、この日スーツ姿で試合前のマツダスタジアムにいた。円陣の中央で「さあ、いこう!」と声を張った下水流は「最後にみんなの顔を見られて良かった」と目を潤ませ、「寂しいけれど、チャンス。自分の持っている力を精一杯出して頑張りたい」と新天地での飛躍を誓った。

 その後に取材に応じた鈴木球団本部長は「(下水流は)試合に出れば勝負強い打撃をするが、なかなか出場機会がなかった。活躍の場があるならば積極的に、ということ」と説明。一方で三好獲得の意図について「(内野は)全部守れる。以前から右打ちの内野手が必要だと思っていた。(菊池涼ら)FAの(権利を持つ)選手がいることも全部含めて」と編成上のバランスを強調した。

 下水流はチーム内で一時は“ポスト丸”とも期待されていた選手。突然の発表にはナインも衝撃を受け、厳しい声も飛んでいる。ただフロントとしても、今回は“負けトレード”も覚悟の決断という。三好に大きな魅力を感じたのは事実だが、一方では純粋に下水流のためでもあるとした。

「彼の身を思えば移籍で確実にチャンスが増えるだろうし、楽天で今まで以上に光る可能性は十分ある。『なぜ出したのか』という結果も目に浮かぶが、今のウチではチャンスを与えられない。このまま置いておくのは簡単。だが、それはいい選択ではないと考えた」。球団の編成関係者は本紙にこう本音を明かした。

 また、血が流れる決断は長野への信頼の裏返しでもあった。「実は下水流を指名する際、『(社会人ホンダの先輩にあたる)長野に似ている』というのがポイントだったんだよ。当時は考えもしなかったが、今は長野本人がここにいる。彼を獲っていなければ、こうはならなかったというのはある」。FA権を持つ長野が今オフに権利を行使して移籍すれば、今回のトレードで描いた編成構想は崩れる。球団としては長野の“広島に骨をうずめる”という思いを信じているということだ。

 長野はこの日、打撃不振により移籍後初めて二軍へ合流。3日にも登録抹消となる見込みだ。トレードを受け、今後は鯉党の視線もより厳しくなるだろう。それでも前出の関係者は「これから必ず戦力になってくれるはず」とベテラン復活に期待を寄せている。

 非情に映るトレードの裏にも流れる広島なりの人情。下水流と長野、新加入する三好。三者が三様に輝く日は来るか。