聖地を震撼させた男の「真の魅力」とは――。第104回全国高校野球選手権大会(甲子園)第6日の第2試合は高松商(香川)が、佐久長聖(長野)を14―4で下して3回戦進出を決めた。今秋ドラフト1位候補で、両打ちの注目スラッガー・浅野翔吾(3年)が清原和博(PL学園)超えとなる高校通算65号、66号を連発して16安打を放った打線をけん引。走攻守揃った抜群の野球センスと「人から愛される人間力」を持ち合わせた金のタマゴには、すでにスター性が漂っている。

 対戦相手、観衆、スカウトの反応すべてが、衝撃度の大きさを物語っていた。まずは5回二死からの逆方向への一発。134キロの直球を手元まで呼び込み、右手でしっかりと押し込んだ。浜風を切り裂き、逆方向となる右中間最深部に突き刺さると、甲子園がどよめきに包まれた。続く7回の一発は相手バッテリーの配球が「変化球多め」になることを読んで、5球続いたスライダーを左翼席へライナーで運んだ。いずれも展開の中で相手の追撃ムードを断つ価値あるものだった。

 香川の名門が誇る「最強の1番打者」は4打数3安打2四死球、6打席で5度出塁した。2発の華やかな結果よりも「死球でも四球でも塁に出られたらいい」と強調した言葉に、主将としての頼もしさを垣間見せた。

 長尾監督は浅野の性格について「気は優しく力持ちという(人気アニメ)ドカベンの歌にあるような、山田太郎のような子です」と説明する。学校関係者やチーム内から聞こえてくる人物像や逸話もまた同じだ。「心優しい愛嬌のある高校生」「嫌味のない、誰からも好かれる人間」。素の〝かわいい一面〟が人を引きつける理由だ。

 高松商では3年生になると「企業研究」という課題が出る。希望する職種や会社を広く理解するためのもので「ドラフト1位でのプロ入り」を目標に掲げる浅野は、もちろんプロ野球12球団を調査。その志は良かったが、研究報告ではなぜかウキウキで担当教員に「ヤクルトはヤクルト飲み放題」「ロッテはお菓子食べ放題」という無邪気全開のレベルに終始。課題の目的が、企業の理念や社会貢献活動といった本業以外の存在意義などを知ることだっただけに「やっぱり浅野はかわいいなあ」と、ある意味〝期待を裏切らない報告〟に教員たちの間で平和な空気が流れたという。

 とにかく周囲からの信頼が厚い。ある学校関係者は「テストの点数が悪くて、長尾監督が『もう聞きたくないよ』と耳をふさいでも、浅野はサバを読まずに正確に報告するような生徒。何にでも現実に目を背けず、逃げない人間」と評す。気がつけば周りに人が集まり、愛される存在だという。

 この日はバックネット裏に〝平時〟はいない12球団の編成トップらが集結。あるベテランスカウトは「プロで大成する選手」の特性を次のように挙げていた。「プロで長く活躍する選手は、いかに人に愛されるか。すなわち苦しい時に手を差しのべてもらえるか。球団や指導者に『もういいや』と思われるのか、『なんとかコイツをモノしたい』と思わせられるか」。プレー以外でもプロからの注目を浴びる浅野。悲願の全国制覇を引っ提げてプロ入りを狙う香川の怪物から、ますます目が離せなくなった。