日本プロ野球界の未来を支える有望株の流出が止まらない。2025年には投打二刀流の森井翔太郎(19)が、桐朋高からアスレチックスとマイナー契約。昨年12月にも今秋のドラフト1位候補と目された佐藤幻瑛投手(21)が来年のMLBドラフトを目指し、仙台大を退学してペンシルベニア州立大に編入した。こうした状況下、強豪校とMLBスカウトとの間でトラブルが発生していたことが判明した。

 問題が発生したのはプロ志望届を提出すれば、今秋のNPBドラフトで指名確実と言われるX選手を擁するA高校。甲子園の常連校で、これまでにも数多くの選手をプロに輩出し、中にはMLBで活躍した選手もいた。

 そんな名門校だけに、日々の練習にさまざまな球団のスカウトらが視察に訪れることは珍しくない。高校側の対応も手慣れたもので日米にかかわらず、良好な関係を築いていた。ところが、今年に入ってMLB球団のスカウトの視察を一時ストップさせる事態が起きていた。

 3月に練習試合が解禁されると、X選手を目当てに日米球団のスカウトが来訪。学校側も視察を受け入れていたが、数日後にX選手に近い関係者からの相談で驚愕させられることになったという。それは、あるMLB球団がX選手の親や、中学時代の指導者に急接近。将来的な育成計画をプレゼンテーションしたばかりか「ぜひウチの球団に来て」とラブコールを送り、米国の球団施設に招待する計画まで伝えてきたというのだ。

 X選手は寮生活を送っており、学校側が全く関知しないところでMLB球団が選手の親族らのもとに足を運び、入団交渉に近い形で接触を図っていたとなれば穏やかではない。学校側は生徒のプライバシーを守る観点からも「看過できない」と判断し、同球団に同様の行為を行わないように通達。春の公式戦直前という重要な時期でもあり、他のMLB球団に対しても一定期間、グラウンドへの視察を〝お断り〟したという。

 X選手はNPB球団にとって、ドラフト上位にリストアップされる逸材。それだけに、この一件はNPB球団のスカウトの間に瞬く間に広がった。しかし、スカウトの一人は「MLBスカウトの行為が違反かと言えば…。むしろスカウトとしては認められるべき仕事」と打ち明けた。

 というのも、NPBのドラフト会議では選手側が期日までにプロ志望届を提出しなければ、指名も受けられない。だが、MLBの場合はその限りではないからだ。

 NPBスカウトが選手の親族や学校関係者と接触することはあるが、契約に関わるような具体的な案件に触れるのは、ドラフトで交渉権を獲得した後。有力選手ほど指名が重複する可能性が高まり、獲得できる保証はないからだ。そのため、日米球団への配慮から学校側が「面談」の機会を設け、その場で育成方針などを伝えることが一般的となっている。

 だが、前出のMLB球団の手法は〝盲点〟を突いたようなもので、NPB球団に先んじてアクションを起こした格好だ。MLBスカウトからすれば熱心に仕事をこなしているまでだが、アマチュア側からすれば「やり過ぎ」と映るのも無理はない。

 こうしたトラブルはどうすれば防げるのか。前出のNPBスカウトは「解決策はただ一つ」と言い切り、こう続けた。

「NPBが動いてMLBと話をして、アマチュア選手の獲得に関するガイドラインを作ること。それを作るにはNPBと高野連や大学野球連盟との連係も必要。それをしない限り、ずっとこのまま」

 選手たちがどういう進路を選択するかは個々の自由で、NPBを経由せずに活躍の場を海外に求める傾向が強まっている。今後も加速するようであれば日本球界は危機的な状況に陥ってしまうが――。(本紙取材班)