第108回全国高校野球選手権大会は智弁和歌山による5年ぶり4度目の優勝で幕を閉じた。自慢の強打で頂点まで駆け上がった。大一番となったのは大会屈指の好投手・織田翔希(3年)を擁する横浜(神奈川)との準決勝だった。最速157キロの〝巨象〟をも猛攻で沈めた背景には、きめ細やかな「野村ID野球」が隠されていた。
今大会の主役は間違いなくMLBも注目する織田だった。V候補対決となった沖縄尚学との初戦でリリーフ登板し、甲子園最速の156キロをマーク。無死満塁のピンチを切り抜ける離れ業で甲子園を揺らした。
横浜の優勢が伝えられた中、智弁和歌山は20日の準決勝で3回途中までに8安打、4得点の猛攻を浴びせて織田を攻略。難関を突破すると決勝では豊富な投手力を誇る健大高崎(群馬)も制してみせた。
高校生離れした異次元の剛腕を一発勝負で沈めた裏には、名将・野村克也氏(故人)に通じる緻密な計算が働いていた。元阪神の中谷監督は野村氏の下でプレーし、ID野球を学んできた。
データに基づいて投手心理、打者心理を読み、カウントの性質を捉える「野村の考え」。普段から関連書物を選手に読ませ、意識を植え付けてきた。打者のスタイルは4つに分類され、Aは直球を待ちながら変化球に対応する天才型、Bはストライクゾーンのコースを狙うタイプ、Cが打球方向を見るタイプ、Dがヤマ張りタイプ。それぞれが自分のタイプを把握してデータと照らし合わせて対応する。
織田の152キロの直球を右翼席に叩き込んだ楠本(3年)は「ずっとデータ班が分析してくれて、2ボール、ノーストライクは100%真っすぐが来るというのが頭に入っていた。自分のタイプも分かっているし、相手のことも分かっている。それができた」と胸を張っていた。
データでは織田の初球の4割がスライダーかカットボール。直球が1球も来ないケースもあり、変化球主体の攻め方は中谷監督の読み通りだった。ある選手は「データ通りに常に落ち着いて試合に臨めた」という。
最初は「こんな野球があるのか」「プロのようだ」と目が点になったというが、2番・荒井(3年)は「データと映像をかけ合わせてイメージしている。実際に楠本も2ボールからの1球を張った。野村さんのいうこと、監督の言うことを頭に入れてできた」と今では〝野村ノート〟が選手の教科書のようになっている。
守備にも生かされ、三塁手の黒川(3年)は「相手選手を見ても打者のタイプが分かるので、守備のポジショニングにも役に立っている。僕だとどういう打者がセーフティーをやってくるとか、チャージをかけるとか。キチンとみんな分かっていれば常勝軍団がつくれる。野村さんも感謝です」と手応えを口にした。
織田を沈め、全国制覇を成し遂げた智弁和歌山はまさに頭脳とパワーを兼ね備えたコンプリート集団といえそうだ。












