ニューヨークの空気が、変わりつつあるようだ。火付け役は選手でも監督でもない。敏腕代理人のスコット・ボラス氏(73)が、ヤンキースのハル・スタインブレナー・オーナー(56)とメッツのスティーブ・コーエン・オーナー(69)を同じ天秤に載せながら、「両者が同時に本気になっている」と読める言葉を投下した。米メディア「ヤードバーカー」が伝えている。
ボラス氏が強調したのは、ヤンキース側の「変化」だ。実父である故ジョージ氏の時代のような〝剛腕イメージ〟と比べられ「競争心が控えめ」と見られがちなハル氏について、ボラス氏は「競争心への情熱的な献身を目の当たりにした」と評価。さらに、補強の具体例としてコディ・ベリンジャー外野手(30)の残留を巡る「熱量」にも言及し、同オーナーから「彼こそが我々の男だ」「焦点は彼だ」という趣旨の言葉を引き出したという。要するにボラス氏にとってヤンキースはただ〝反応する側〟ではなく、どうやら積極的に〝獲りにいく側〟へ戻りつつあるという解釈のようだ。
一方のコーエン氏は、別のベクトルで褒められた。勝負の場面で引かないだけではない。「戦略的に進め、細部までこだわる」「次世代の才能を担う人材を見つけるための調査が絶えず行われている」。大金を投じる派手さより、執念深く積み上げる設計図。ボラス氏の言葉を借りれば、同じ〝勝つための本気〟でも、ヤンキースは「集中と情熱」、メッツは「執着とディテール」という対比になる。
ニューヨークの2球団は、これまで「片方が上げて、片方が追う」という単純な力学で語られがちだった。だがボラス氏は、その前提自体が崩れ始めた可能性を示唆。2人の億万長者が同時にギアを上げるなら、補強は単発の勝負では終わらない。相手の一手を見てから動く「後出し」ではなく、最初からぶつけ合う「同時多発」になる。
もちろん、ボラス氏の発言は無垢な評論ではない。市場の熱を上げることは、代理人ビジネスの追い風にもなる。だが、その利害を差し引いても、ヤンキースの「控えめ」イメージに揺さぶりをかけた意味は大きい。ニューヨークの覇権争いは、ただの街またぎの盛り上がりから、球界全体の相場観を左右する〝長期戦〟へ変質するのか――。海千山千のボラス氏が点火したのは補強そのものではなく、いわば「NYオーナー戦争」という名称が付けられた火薬庫のスイッチだったのかもしれない。












