行きつけの店は、味の前に「空気」で決まる。TAJIRIは、店に入った瞬間の感覚を一番信用しているという。「入った瞬間、もうビビッとくるっていう以外言いようがない」。その直感がまず半分を占め、座ってみて残りが決まる。座り心地も含めて、店に身を置いた時の居心地を確かめる。最初に引かれるかどうかは、料理の評判よりも早く、体が先に反応する感覚に近い。

 逆に合わないと感じたら、迷わず出る。「うるさかったら出ますね、すぐ」。店内でサラリーマンが騒いでいるような空気は苦手で、席に着いた後でも「何にしますかって来てから出たこともあります」と明かす。自分の勘を優先し、うまくやり過ごして店を出るのも、長く店と付き合うための判断だ。無理に合わせて疲れるくらいなら、最初の違和感を信じて切り替える。その潔さが、次の店選びにもつながっていく。

こちらは「ビビビッ」ときた2人(左から鷹木信悟、なつぽい)
こちらは「ビビビッ」ときた2人(左から鷹木信悟、なつぽい)

 空気は、客側だけでつくるものではない。TAJIRIが心地よさを感じるのは、店の側がこちらを必要以上にいじらず、でも見ている時だという。「店のマスターが、さりげなく気にしてるな、これはっていう感じがした時は、いい感じがしますね」。過剰なサービスではなく、目配りの気配がある店を「いい店」だと捉えている。視線や間の取り方ひとつで、客として扱われているのか、ただの人数として流されているのかが伝わる。そこに違いが出る。

 距離の取り方にも一貫した基準がある。店と親しくなっても長居はしない。「どんなに親しくなっても、多分40分ぐらいで出ちゃう」。混んできたらなおさら早い。「混む前に行く」と決め、開店直後の早い時間に店へ入っても「だいたい混み始める前に入って、混んできたらすぐ出ます」と話す。2軒目で立ち寄る時も、のぞいてみて合図があれば引き、入れてもらえるなら短時間で切り上げる。店の都合と自分の都合、その接点を崩さないことが優先だ。

 店と近づき過ぎない、居座らない、混雑の邪魔をしない。味や相性以前に、店と自分の距離を崩さないことが、行きつけと長く付き合うための前提になっている。空気を壊さず、店の流れを乱さず、自分も気持ちよく帰れる。そういう関係ができた店だけが、結果として「行きつけ」になっていく。