2025年6月3日に亡くなった長嶋茂雄氏を偲び、同氏の第2次巨人監督時代を振り返った連載「ハダカの長嶋巨人」。常に話題の中心にいた「ミスター」を取り巻く人たちを含めた群像劇を、当時の東スポ巨人担当記者が振り返ります。

【ハダカの長嶋巨人#8・バルビーノ・ガルベスの巻】

 第2次長嶋巨人の「最強助っ人」は誰か? やはりバルビーノ・ガルベス。彼が最強だろう。

 1996年、春季キャンプでの入団テストを受けて合格。1年目からいきなり16勝を挙げ、最多勝のタイトルを獲得した。この年はもちろん、最大11・5ゲーム差をひっくり返して奇跡のリーグ優勝を果たした「メークドラマ」の年。ガルベスの存在なくしてメークドラマはありえなかったし、存在自体がドラマのよう。とにかく何をしでかすかわからない「カリブの怪人」からは、目が離せなかった。

 今でも強烈な印象が残っているのが、96年5月1日にナゴヤ球場で行われた中日戦。山崎武司と取っ組み合いとなったあの大乱闘劇だ。頭付近のボールに激高した山崎がマウンドへ向かうと、ガルベスはマウンドから降りながら左手のグラブをスッと地面に落とし、それから左ストレートを繰り出した。後日、聞いた話では「グラブを落としたのは、利き手の右で殴るわけにはいかないから」。ブチ切れながらも頭の中は冷静。思わず身震いしたのを覚えている。

 一般的には98年7月31日の阪神戦(甲子園)で、投手交代を告げられた際に球審にボールを投げつけるという前代未聞の暴挙を起こし、後日、長嶋監督が頭を丸める事態となった事件が有名だが…。やはりガルベスを語る上で、あの事件に触れないわけにはいかない。96年10月23日に起きた「東スポ記者トイレ監禁事件」だ。

ガルベスの不倫を報じた本紙1面
ガルベスの不倫を報じた本紙1面

 あれはオリックスとの日本シリーズ第4戦が行われた、グリーンスタジアム神戸(現ほっともっと)での試合前のこと。三塁側ベンチ前で他社の記者から「ガルベスが鬼の形相で東スポの記者を探しているぞ!」と聞いて、血の気が引いていくのを感じた。原因はこの日発行の東スポ本紙が1面で「ガルベス不倫」を報じたから。やがてガルベスは本紙G番キャップの松下記者をGS神戸のトイレに監禁し「情報提供者を教えろ。でなければお前を殴る」と脅迫したのだ。

 トイレ前の通路にはマスコミ各社の記者、カメラマン、巨人広報担当らが押しかけ大混乱。巨人広報担当がトイレのドア越しに「とにかく開けろ! ここを出て話そう!」とガルベスを説得するさまは、まるで立てこもり犯を刑事が説得するドラマのワンシーンのようだった。

 当然、ガルベスの愚行に松下記者がニュースソースを明かすわけもなく、監禁は15分ほどで解かれることになるのだが…。あのトイレ前での15分を思い出すと、今でも背筋が寒くなる。もちろんあの密室でカリブの怪人と直接対峙した、松下先輩はそれ以上だったと思いますが…。