悲壮感が漂う4番に少しずつ光明が差してきた。第5回WBC1次ラウンドB組の日本代表・侍ジャパンは、11日のチェコ戦(東京ドーム)に10―2の逆転勝ちで3連勝。準々決勝進出に大きく前進した。

 初回に先制点を献上するも、3回に5番・吉田(レッドソックス)の左翼線への適時二塁打などで3点を奪って逆転。4回にもヌートバー(カージナルス)、近藤(ソフトバンク)、大谷(エンゼルス)の1、2、3番の連続適時打などで4点を加えて試合の流れを決めた。

 一方で、好調な上位打線と勝負強さを発揮するメジャーリーガーに挟まれた4番・村上宗隆内野手(23=ヤクルト)は、モヤモヤを抱えながら戦っている。第2戦まで7打数無安打、4三振。この日は形勢がほぼ決まった7点差の8回に大会初安打を放つと、好判断で一塁から二塁へのタッチアップを決めるなど、自ら「最低限」と語る働きで勝利に貢献した。

 今大会15打席目での快音に「素直にうれしいです」と安堵の表情を浮かべたが、同時に正直な思いも明かした。周囲の心配や気遣いに「すごく嫌でしたね。なかなかチーム(ヤクルト)でもそういうことを味わうこともないですし、逆に『打てよ!』と言ってもらった方が楽になる部分もあったと思うんですけど、これも僕にしかできない経験。またプラスに捉えて頑張っていきたいと思います」と人知れず背負う苦悩を語った。

 本来の〝村神様〟ではない。上位がつくったチャンスを4番で返せず、5番・吉田がフォローする状況が続いている。救われるたびに、吉田に向かってガッツポーズを送る姿には葛藤もにじむ。史上最年少の3冠王――。当然プライドもあるはずだ。年々、進化を遂げ、記録を塗り変えることで周囲のハードルも自己評価のハードルも上がる。トップランナーゆえの苦しみを味わっている。

 昨季の記録的だった村上の活躍を受けて、通算868本塁打のソフトバンク・王貞治球団会長(82)は「今後の村上」を予見していた。

大谷翔平(右)らの練習を見守ったソフトバンク・王球団会長(左奥)
大谷翔平(右)らの練習を見守ったソフトバンク・王球団会長(左奥)

「あの年数(高卒5年)でここまで来たということは、逆にこれからが〝いばらの道〟。なぜなら、ここまで来ると普通にやって、それが当たり前だってなるから。そうすると、これからは『なんで打てないんだよ』ということで周りからも責められる。自分もだが、それができないという時もある」

 自身は現役最終年に30本塁打を放ってユニホームを脱いだ世界のホームラン王。「孤高の歩み」が始まったばかりの23歳へ送る特別なエールだった。

 村上にしか分からない葛藤。もちろん国際大会で悠長なことを言っていられないのは、百も承知だ。だが、王会長はこうも言葉を贈った。「いばらの道でしょう。でも、野球人としては本当にやりがいがある」。この日の試合前練習、王会長の優しい視線の先には、試行錯誤する背番号55の姿があった。