【取材の裏側 現場ノート】ノアの〝プロレスリングマスター〟こと武藤敬司(60)が、21日の東京ドーム大会で引退する。

 その日に向けて「ゴールなきマラソン~武藤敬司の軌跡~」を連載中だ。連載を担当して取材をする中で特に印象的だったのが、昨年10月1日に死去したプロレス界のスーパースターで、師匠のアントニオ猪木さんへの思いだった。若手時代には何度もタッグを組み、ランニングやスパーリングなどでの練習パートナーも務め、教えを叩き込まれた。その後も人生の節目で、さまざまな影響を受けたことを連載で述懐している。

 武藤は猪木さんと自らの師弟関係について「実際に一緒にトレーニングしたり、リングで試合したりした最後の弟子って俺たちだと思うんだよ。汗を流しながら叩き込まれたのはね。蝶野(正洋)は付け人をして、橋本(真也)もあれだけ感化されて」と振り返る。

 猪木さんからは引退後に指導を受けた選手も多い。だが、現役時代の猪木さんから学んだ感覚との微妙な違いを、天才は感じているように見えた。

スパーリングで武藤(右下)を指導する猪木さん(1985年)
スパーリングで武藤(右下)を指導する猪木さん(1985年)

 それを踏まえ「闘魂」や「猪木イズム」といった言葉で称される「猪木さんのプロレス」の行方への思いを口にした。

「ある意味で言ったら、昭和の教えというかね。多分、俺が引退したと同時に猪木さんの昭和のプロレスっていうのは、自然になくなっちゃうんじゃないかと思うよ。ただ、決してそれは悪いことでもないと思う」

 今もマット界には、さまざまな形で猪木さんの影響が残っている。そして、永遠に残るものもあるだろう。だが、そのうちで武藤が感じている〝何か〟は、その引退とともに姿を消す。それがその言葉通り、プロレス・格闘技界の前進につながると信じたい。(プロレス担当・前田 聡)