【2021プロ野球残念案件】7月6日。ゲンナリするほど暑い一日だった。十分に空調が効いているとは言い難い神宮球場の記者室。最前列最左翼(三塁側)の〝特等席〟でその瞬間を目撃した。
「絶対やってへんわ!」
速報原稿の作業をしている時に、至近距離から怒声が聞こえてきた。目の前の三塁ベンチに目を向けると、矢野監督と井上ヘッドが血相を変えて叫んでいる。視線の先にはヤクルトの三塁手・村上。勇敢な21歳は臆することなく阪神ベンチを鋭く睨みつけながら何かを言い返している――。
二走・近本の帰塁動作が「バッテリーのサインを打者に伝達しているように見える」とヤクルトベンチに指摘されたことから始まったこの騒動は、最終的に矢野監督と高津監督による一触即発の押し問答にまで発展。ただ一人、バッターボックス内の佐藤輝だけが「何が起きたか分からない」といった表情で始終キョトンとしていたのが印象的だった。
チーム首脳は「サイン盗みなんかするわけないじゃないか。本当にやっていないんだよ」と悔しそうな表情で後日、あの一戦を振り返る。事態の性質上、潔白を完全に証明する術がなかったのももどかしかった。
近本は常に野球に対して真摯に取り組む誠実な好青年だ。あくまでも個人的な見解だが、入団以来3年間にわたり背番号5を取材してきた身としては、彼がこのようなアンフェアな行為に手を染めるとは到底思えない。ただ、このあたりからチーム全体の〝潮目〟が変わっていったように感じるのも事実だ。6月までぶっちぎりの首位を独走していた阪神だったが7月は5勝8敗、8月は7勝9敗と負け越し。気がつけば驚異的な猛スパートを見せた高津ヤクルトにペナントレースの覇権を奪われてしまった。
それにしても阪神―ヤクルト戦は揉め事がよく起きる。今年4月18日に甲子園で行われた同カードでは岩貞が村上に、加治屋が塩見に死球。ヤクルトの右腕・梅野も〝報復ぎみ〟に大山へ死球を与えた時点で「警告試合」が宣告される不穏試合の様相に。高津監督も試合後「あまり(死球が)多いと気分は良くない」と不快感をあらわにした。
2017年4月には藤浪が畠山の頭部付近へ死球を投じたことをきっかけに、両軍入り乱れての大乱闘が勃発。当時作戦兼バッテリーコーチだった矢野監督が、バレンティンに向け発射した飛び蹴りは今も記憶に新しい。
シーズン最終盤でヤクルトに競り負けたシーズンとして、今季何度も取り上げられた1992年の9月にも「八木の幻の2ラン」と呼ばれる6時間26分の〝因縁の一戦〟があった。またも遺恨が深まってしまった2021年の両軍。来季こそ矢野阪神には特大のリベンジを期待したいところだが――。












