【新・鬼の手帖】なんだかスッキリしない。阪神は12日までに来季が契約最終年となる矢野燿大監督(51)に続投要請する方針を固めた。首位巨人と12・5ゲーム差ながら、貯金3で2位と健闘していることを考えれば妥当な判断だろう。引っかかるのは一部報道で明らかになった指揮官の絡んだ遠征先での大人数による食事会だ。折しも同様の内規違反で新型コロナの集団感染を引き起こした選手たちには制裁金が科されたばかり。西武とオリックスで監督を務め、阪神でもコーチ経験のある本紙専属評論家の伊原春樹氏が一連の騒動に物申す――。


 阪神のゴタゴタは収まる気配がない。遠征中、球団内規に違反した外食で球界最年長の福留ら選手・スタッフ9人が新型コロナウイルスに感染した。3月にも藤浪ら3選手が外食先で感染した案件に続き、再びチーム内から〝感染の仕方に問題がある〟事例を起こした責任を取り、9日に揚塩球団社長が今季限りでの辞任を発表したばかり。これで幕引きとなり、シーズンの残り試合に集中できる環境が整ったかと思ったら、今度はあろうことか矢野監督に〝疑惑の目〟が向けられた。

 一部夕刊紙の報道に、球団は「事前に球団本部の責任者が相談を受け、監督のチームマネジメント、チーム力強化に資する内容として判断したため、球団として許可を出しました」との談話を出した。確かに外食許可日の4人という規定内人数を大幅に超えていましたが、それはこちらも了承しており把握済み。3月の件や9月の2件での集団感染時に起きた〝問題行動〟とは比べること自体が、お門違いという見解だが「さすがにそれはちょっと苦しい言い訳では…」と感じるのは私だけだろうか?

 新型コロナ禍での特殊なシーズン。全球団が足並みを揃えることが最も大事なのに、現場の長である監督自ら球団内規に定められた以外の行動をとること自体、理解に苦しむ。グラウンドでの采配は自分が責任を取れば済むことかもしれない。だが、今回はチーム力強化に値するとした球団公認の「会食」が原因であり、万が一にも感染者が出た場合、世間に対して現場の監督が責任を取り切れる事案でないのは明白だ。

 そんな〝特権〟を与えるほど、球団は矢野監督の手腕を評価しているのだろう。親会社の電鉄本社もその見解については一致しているようで、契約最終年となる来季の続投も決定的だと聞いた。ただ、個人的には今回の件で球団が矢野監督を解任しても致し方ないとさえ思う。この日の球団の見解には、大きな違和感を覚えた。

 人気面で球界の盟主・巨人に負けずとも劣らない阪神は西の老舗球団である。昔ほどではないにせよ、監督や選手などを接待したがる支援者、いわゆるタニマチは、今も数多くいることだろう。私もコーチでユニホームを着た2000年に、それを体験した一人だからよく分かる。

 ひとつ言えるのは、これからの時代はプロ野球も「世の常識」を持ち合わせていない組織や選手は淘汰される流れにあるということ。昭和の時代においては、エンターテインメントや興行では、どんぶり勘定の決裁や、業界の慣例に忖度決議はつきものとされていた。

 しかし、今では「コンプライアンス」の名のもとに通用しない。それは00年以降の球界を見渡せば、すぐに理解できるはずだ。巨人や西武を舞台にした「裏金・栄養費問題」や日本ハムでは、親会社で起きた「牛肉偽装問題」以降、子会社の球団でも法令順守の意識がかつてないほど徹底されたと聞く。

 見方を変えれば、阪神球団も今回の騒動をきっかけに変われるチャンスを得たのではないかと思う。これまでは鉄道会社を親会社に持つ「阪神タイガース」で、いい意味でも悪い意味でも〝なれ合い〟や〝融通〟が利いた部分も、06年に阪急電鉄、阪神電鉄両社の経営統合により誕生した「阪急阪神ホールディングス(HD)」において「タイガース」という阪神側の組織に、阪急側の組織の人間が目を光らせていくことは何も悪いことではない。

 長く繰り返されてきた〝お家騒動〟に対して自浄作用や自浄能力をもつ絶好の機会でもある。そういう意味で、新型コロナウイルスはまだ阪神を試しているとさえ思う。(本紙専属評論家)