ベンチの空気、選手の表情、そして言葉の裏側――。その現場の臨場感を視聴者に届け続けているのが、福岡ソフトバンクホークス公式中継リポーターの海里さん(43)だ。2011年にRKB毎日放送のスポーツ番組「瞬感スポーツ」でキャスターを務め、13年からは公式中継リポーターに就任。以来、グラウンドの最前線に立ち続けてきた。その歩みと取材スタンスに迫った。

プロ1号を放った西武・仲三にヒーローインタビューする海里さん(4月7日)
プロ1号を放った西武・仲三にヒーローインタビューする海里さん(4月7日)

 海里さんは高校卒業後、看護学校へ進学するも、注射の実習が怖くて途中で退学。そこから縁あってこの業界に入り、しゃべる仕事に出会った。2011年にホークスに関わり始めた当時は「野球の知識はゼロ」で、打ったら一塁か三塁かも分からない状態。選手に声をかけることもできず、最初の1年間はあいさつだけの日々だったが、選手と記者のやりとりを見聞きしながら理解を深めていった。

 公式中継リポーター就任が決まった際も「私でいいんですか!?」という思いが先に立った。取材スタイルも変化。当初はノートに清書していた情報は、現在はデータで管理し、チームの選手ごとに整理。スマホとタブレットを併用して即座に引き出せる状態を整える。「試合は一瞬で流れが変わるので準備がすべて」と語る。

 ベンチリポートで最も重視するのはタイミング。プレーや実況、解説の流れを邪魔せず自然に入り込む。自身の役割は「秘書」ときっぱり。前に出過ぎず、必要な情報を届けるバランスを大切にしている。ヒーローインタビューではビジターチームを担当。ヒーローに選ばれた選手がホームではない分、少し遠慮してお立ち台に上がることもある。ヒーローをたたえる場であるため、なるべく気持ち良くインタビューを受けてもらえるよう空気づくりを意識する。

 近年で印象に残る場面として挙げたのが昨季のリーグ優勝だ。海里さんによると、巨人にFA移籍した甲斐拓也がチームを去った中で戦っていた海野隆司捕手について、シーズンを通してその葛藤を見てきたという。優勝決定後、何とも言えないホッとした表情を浮かべていたといい、その後の取材で心境を聞くと「拓さんが抜けてから弱くなったと思われたくなかった」と語り、「ホッとした」と振り返った。「自分の力じゃない」と投手陣への感謝も口にし、春先の苦しい時期も投手のためにやるという意識で乗り越えたことを明かした。

 九州電力キューデンヴォルテクスのピッチサイドリポーターも務めるなど活動の幅は広い。イベントでのMCや司会では「目の前の反応がそのまま返ってくる」面白さを感じ、リポーターとは異なる役割を実感している。自身を「不安症で心配性」と分析し、「失敗は準備不足」と言い切る。「誰かが嫌な気持ちになる言葉は使わない」という信条のもと、準備と積み重ねを徹底している。

田中真一選手、バカチンガーと写る海里さん(九州電力キューデンヴォルテクス提供)
田中真一選手、バカチンガーと写る海里さん(九州電力キューデンヴォルテクス提供)

 プライベートでは食べ歩きが好きで、新しい店の開拓が楽しみ。中でも「一番よく行っている」と語るのが、福岡の和菓子店「鈴懸」のいちご大福だ。あまおうの時期限定で、こしあんと求肥、いちごのバランスが絶妙な一品で、毎年10個以上は食べるほどの好物だ。さらに佐賀バルーナーズのマスコット「バルたん」に夢中で、スマホの待ち受けにするほど。「動きがちょっと破天荒で面白い」と笑う。休日は自宅でネットフリックスなどの動画配信サービスを見て過ごすことが多い。

「今のスタンスのまま、もっと細かい部分まで拾って伝えていきたい」。そう語る海里さんの視線は、これからも現場に向けられ続ける。

笑顔でインタビューに応じてくれた海里さん
笑顔でインタビューに応じてくれた海里さん