幻の1面「星野監督がフジ女性キャスターに激怒」

2020年05月19日 11時00分

中日は99年に優勝。美酒に酔う星野監督

【球界平成裏面史(26) 96年長嶋巨人VS星野中日の巻(3)】平成8年(1996年)のプロ野球は長嶋巨人の大逆襲に沸いた。首位・広島に最大11・5ゲーム差をつけられながら7月から猛反撃。巨人がシーズン終盤に首位に立つと、日本中がワッショイ!ワッショイ! 長嶋茂雄監督の造語「メークドラマ」はこの年の流行語大賞となったほどだ。

 その巨人に最後まで抵抗したのが星野ドラゴンズだった。10月3日の広島戦に勝って5連勝。残り4試合(巨人との直接対決2試合を含む)をすべて勝てば巨人と同率首位に並びプレーオフに持ち込める。中日は強烈な粘り腰を見せた。

 ただ、東海地方を除く日本中が期待していたのは巨人のメークドラマ。それを表す象徴的な出来事があった。「早く(長嶋監督の)胴上げが見たいですね」。10月4日の阪神―中日戦(甲子園)が降雨中止となって巨人の優勝が持ち越しになると、フジテレビのニュース番組の中である女性キャスターはこうコメントした。世論もマスコミも望んでいたのは中日の優勝ではなく、長嶋監督の笑顔。中日はそんな世間の空気とも戦わなくてはならなかったのである。

 全国ニュースでの女性キャスターの発言に、中日サイドは「フジテレビは巨人に優勝してほしいんだろ!」と怒り心頭。10月5日の広島戦(ナゴヤ球場)の試合前、星野監督は「そりゃあ向こう(巨人)の方がファンは多いかもしれん。でもこっちも一生懸命やっているんだ。必死に戦っている選手に対して失礼だろ」と女性キャスター発言に対する不快感をあらわにした。

 さらにこの日の広島戦のテレビ中継が中日サイドの怒りを増幅させることになる。当初は東海テレビだけのローカル放送だったが、中日が敗れれば長嶋監督の胴上げとなるため、キー局のフジテレビは午後9時から放送予定だったゴールデン洋画劇場「ターミネーター2」の開始を遅らせ、ナゴヤ球場の試合を途中から全国放送に。巨人ナインが胴上げに備えて待機している東京ドームからの中継を挟みながら放送した。ところが東海ローカルから全国中継に切り替わった途端に中日と広島が熱戦を繰り広げているテレビ画面に「緊急中継! 長嶋巨人メークドラマ完結なるか?」というテロップがずっと映し出されることとなった。

 試合は中日がサヨナラ勝ちし、巨人の優勝に待ったをかけたが「これじゃあ、まるでうちが負けるのを期待されているようじゃないか」とテロップに対して中日関係者の不満が爆発。試合後、関係者からテロップのことを聞かされた星野監督は当然ながら、また激怒した。

 翌6日の巨人戦(ナゴヤ球場)は2年前の10・8と同じような決戦ムード。中日は翌年から本拠地をナゴヤドームに移すことになっており、この試合はナゴヤ球場ラストゲームで絶対に負けられない一戦だった。実はこの試合に中日が勝てば「星野監督、フジテレビの女性キャスター発言と中継テロップに大激怒」という記事が東スポの1面を飾る予定になっていた。だが試合は巨人が5―2で勝利し、メークドラマは完結。2年前の10・8決戦と同じように長嶋監督はナゴヤ球場で宙を舞い、星野監督の東スポ1面は幻となった。ちなみにこの試合を全国中継したのもフジテレビ(東海テレビ)であった。

 それから3年後の平成11年(99年)9月30日、長嶋巨人とデッドヒートを繰り広げていた中日はヤクルト戦に勝利して11年ぶりに優勝。星野監督は神宮球場で胴上げされ、宿泊先の赤坂プリンスホテルでビールの泡にまみれ、プールに飛び込んで喜びを爆発させた。ビールかけの後、ホテルからの中継でフジテレビのスポーツ番組に生出演した星野監督だが、3年前のことを忘れていなかったのであろう。生放送で皮肉交じりにこう言い放った。「フジテレビのおかげで優勝できました!」――。