巨人のV戦線に、苦しみ抜いた男が火をつけた。チームは26日のヤクルト戦(神宮)に5―3で競り勝って首位・阪神が敗れたため、その差は1・5ゲームに接近。「8番・捕手」で今季3度目の先発出場となった甲斐拓也捕手(33)が9回に今季初安打となる勝ち越しの決勝1号ソロをたたき込み、逆転勝ちを呼び込んだ。
1―2の8回にダルベックの2点適時二塁打で逆転しながら、その裏に追いつかれる一進一退の攻防。9回一死、甲斐はウォルターズのカットボールを強振し、左翼席へ運んだ。まさに勝負どころを知る男のひと振りだった。「ファンの皆さんが喜んでくれる景色を見れたのは野球選手としてすごくうれしいことだなと思います」。歓喜に沸くスタンドを見渡し、喜びをかみしめた。
今季は順風満帆とは、ほど遠い。移籍2年目で10年ぶりの開幕二軍スタート。6月下旬に1度目の一軍昇格を果たしたものの5試合出場後に再降格し、今月13日にようやく2度目の昇格を果たした。
それでも腐らなかった。「いろんな思いはありますけど、やれることをしっかりやっていこうと思ってましたし、野球している以上、どこでもやらないといけないですし」。人知れず積み重ねる努力も「誰かの目にとどまってくれればいいな。とどまってくれるだけでも勝ちだし」。誰が見ていようがいまいが、〝誠実に生きる〟姿勢を曲げなかった。
その強さは、育成選手からはい上がり、ソフトバンク時代に幾度も優勝争いと日本一の舞台をくぐり抜けた経験にも裏打ちされている。1敗の重みが増すシーズン終盤。数々の修羅場を知る男が放った一発だからこそ、価値は大きい。
甲斐は「支配下との差を埋めるにはどうしたらいいのか、ずっと考えてた」と明かし、捕手は投手、チーム、監督から信頼を勝ち取る必要があるとして「そうなると私生活からちゃんとしていないと」と語る。春季キャンプでは午前5時半から散歩し、6時には朝食会場へ――。「眠てえと思って寝グセつけていったところで、ピッチャーがそれ見たら、こいつを信用できるかっていう話になるから」と、日常から自らを律してきた。
「本当はぐっすり寝たい。7時半とかまでね」。そう笑う裏にあるのは、捕手として生き抜く覚悟だ。腐らず、おごらず、準備を続けてきた背番号10。そのバットが、巨人のV争いを大きく動かした。












