MLBのトレード市場で最大の火種となりそうなのが、タイガースのタリク・スクバル投手(29)だ。ドジャースなど資金力豊富な強豪が8月3日(日本時間4日)のトレード期限前の移籍先候補に挙がる中、米有力紙ニューヨーク・タイムズ傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は27日(日本時間同日)、意外な伏兵としてブルワーズの名前を浮かび上がらせた。

 同サイトのケン・ローゼンタール記者が着目したのは、単なる「大物左腕争奪戦」ではない。ブルワーズは今季もナ・リーグ中地区で上位を走る一方、年俸総額は30球団中19位。過去5シーズンで4度の地区優勝を果たしてきた低コスト球団ながら、ポストシーズンでは決定打を欠いてきた。だからこそ、左肘手術からの復帰を目指す2年連続ア・リーグのサイ・ヤング賞受賞投手スクバルが、2008年シーズン途中にインディアンスからブルワーズへトレード移籍した殿堂入り左腕CC・サバシア氏(45=以下、敬称略)を思わせる「最後の一押し」になり得る。

 当時のブルワーズはサバシアを期限前に獲得し、26年ぶりのプレーオフ進出を果たした。サバシアは移籍後に防御率1・65をマークし、最終戦では122球完投勝利。球団史を動かす補強となった。スクバルも今オフにFAとなる見込みで、契約残り2か月分の年俸負担は約1000万ドル(約15億9000万円)とみられる。事実上の「レンタル補強」としては高額だが、世界一を狙う球団にとって非現実的な額ではない。

 ただし、リスクは大きい。スクバルは今月上旬に左肘の遊離体除去手術を受け、復帰時期と状態は不透明。タイガースが低迷を認めて売り手に回ること、ブルワーズが有望株を差し出す覚悟を固めることも条件となる。将来の主力候補を手放して故障明けのエースに賭けるのは簡単ではない。

 それでも、この話が重くのしかかるのは、MLB全体が労使交渉の火種を抱えているからだ。ブルワーズ、レイズ、ガーディアンズ、アスレチックスといった収益分配対象の球団が各地区で上位を走る現状は、「資金力の乏しい球団は勝てない」というオーナー側の主張を揺さぶっている。そこにブルワーズがスクバル級の大勝負まで仕掛ければ、サラリーキャップ導入論にも一石を投じることになる。

 ドジャースがさらなる巨大補強に走るのか。それとも〝低予算の雄〟ブルワーズが球界の常識をひっくり返すのか。スクバルの去就は、単なる市場の目玉にとどまらない。デッドライン前の一手が、優勝争いと労使闘争の空気まで変える可能性をはらんでいる。