黒船はWBCのみならず、球宴前夜までのみ込んだ。米有力紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は13日、米東部時間同日夜(日本時間14日朝)にフィラデルフィアで開催のホームランダービーが、長年中継してきた米スポーツ専門局「ESPN」に代わり、Netflix(ネットフリックス)で独占配信となった背景を報じた。

 日本の野球ファンには、すでに見過ごせない流れだ。ネットフリックスは今春の第6回WBCを日本国内で独占配信。地上波での生中継はなく、日本テレビが制作協力に回り、侍ジャパン戦をディレイ放送する形となったことで物議を醸した。日本の地上波テレビ各局から「黒船」と称された巨大配信会社が今度は、米球宴の目玉イベントまで手中に収めた。

 狙いは試合を大量に抱えることではなく、世界的な注目が一点に集中する大型イベントを押さえることにある。スポーツ担当副社長ゲイブ・スピッツァー氏は「量産は戦略ではない」と説明。ネットフリックスは3月25日(同26日)のMLB単独開幕戦、今回のホームランダービー、8月13日(同14日)の「フィールド・オブ・ドリームス」戦という〝点〟を結び、野球市場への存在感を一気に高めようとしている。

 MLB側にも渡りに船だ。1985年に始まったダービーは、2015年から制限時間制へ移行したが、時計とスイング、複雑なボーナス規定を同時に追わなければならず、「速すぎるのに長い」との矛盾した不満が噴出。選手も序盤から振り続けて消耗し、スターの出場をためらわせる一因となっていた。

 そこで今年は制限時間とボーナスラウンドを撤廃。第1ラウンドは20スイング、準決勝と決勝は各15スイングとし、一本一本の豪快な打球を視聴者が味わえる原点回帰型へ改めた。最後のスイングが本塁打なら、次に失敗するまで続行できる仕掛けも残した。MLBの野球運営担当副社長モーガン・ソード氏は、狙いを「ペースを落とし、ルールを簡素化すること」とした。

 世界市場を意識するネットフリックスは、ベネズエラのコントレラス(レッドソックス)の出場を巡ってMLBと協議し、日本の村上宗隆内野手(26=ホワイトソックス)の参戦も歓迎。地元フィリーズのハーパー、シュワバーらスターをそろえ、多言語配信で新たな視聴者を取り込む狙いを鮮明にした。

 ネットフリックスが手にしたのは、単なる中継権ではない。世界中の野球ファンが同時に集まる「球宴前夜」そのものだ。