波紋を呼ぶ衝撃チャントの意味は――。14日(日本時間15日)に放送された米国・AEWの「AEWグランドスラム:オーストラリア」(シドニー)で、AEW世界王者のMJF(29)が、ブロディ・キング(38)をヒートシーカー(変型脳天杭打ち)で下して、ベルトを守った。

 AEW最高峰王座がかかった一戦はメインで行われたが、ゴングが鳴る直前の会場で異様なシーンがあった。観衆が突如Fワードを使い「クソICE! クソICE!」とチャントしたのだ。このチャントは4日(同5日)の「DYNAMITE」ネバダ州ラスベガス大会で行われた、MJFvsブロディのエリミネーター戦のゴング直前にも沸き起こった。この際、王者MJFの顔が一瞬にしてこわ張ったことも大きな話題となった。

ブロディ・キング(右)にヒートシーカーを決めるMJF(©All Elite Wrestling)
ブロディ・キング(右)にヒートシーカーを決めるMJF(©All Elite Wrestling)

「ICE」とは米移民・税関捜査局のことで、トランプ政権の不法移民政策を受け、同局は取り締まりを強化している。ミネソタ州ミネアポリスでは先月、反発した市民による抗議デモが起きたが、デモに参加した米国民2人が捜査官によって射殺されるという事件が発生した。トランプ政権の不法移民への強硬姿勢は世界中に衝撃を与え、ICEの捜査官が現在開催中のミラノ・コルティナ五輪に派遣されると、ミラノ市民は大反発した。

 かねてブロディもこうしたトランプ政権の方針に反対の姿勢を取っており、「ICEを廃止せよ」と書かれたTシャツを制作。このTシャツを販売し、収益の全額をICEによる摘発で影響を受けた家族への支援に回す活動を行っている。昨年6月のメキシコ大会では入場時に着用して物議を醸した。そうしたブロディの活動に共鳴した米メジャー団体のファンが、ラスベガスとシドニーで声を上げたとみられる。

 プロレスファンがこうした政治的なチャントを上げるのは、異例中の異例。米メディア「CNN」(電子版)では「プロレス界を震かんさせる、常識を覆す新たな動き――政治的立場を明確にすること」との特集記事を掲載したほどで、このチャントについてこう解説している。「AEWがレスラーに時事問題について立場を表明させる姿勢は、ファンにとって両団体の差別化のポイントとなり、マクマホン家とスポーツエンターテインメントのつながりを警戒する観客を引きつけている」

 世界最大団体のWWEはトランプ政権との関係が深く、CCO(最高コンテンツ責任者)のトリプルHは「大統領スポーツ・フィットネス・栄養評議会」の副議長を務めている。トリプルHの義母にあたるリンダ・マクマホン氏は現政権で教育長官に就任。引退したビンス・マクマホン氏とトランプ氏の親交は広く知られる。それだけに、世界最大団体とのライバル関係に敏感なAEWファンが、トランプ政権とのつながりのあるWWEとの違いを見せたという見解だが…。

 AEWのリングが意外な形で世界的な注目を集めたのは間違いない。