【プロレス蔵出し写真館】年明け恒例の新日本プロレス1・4東京ドーム大会は、超満員札止め4万6913人の観客を熱狂させた。

 東京オリンピック柔道男子100キロ級金メダリスト、ウルフアロンが予想以上にプロレス適応能力を見せてデビュー戦を勝利で飾れば、メインイベントでオカダ・カズチカと引退試合を行った棚橋弘至は、正調レインメーカーで〝介錯〟され、選手生活に幕を下ろした。

 棚橋は試合後、引退セレモニーについて聞かれると、「藤波(辰爾)さんも武藤(敬司)さんも来ていただいて…感謝です」と心情を吐露した。

 棚橋の試合をリングサイドで見守った藤波は、「新日本プロレスの1・4ってねぇ…無難に終わったことないから。猪木さんのあのころは…」。しみじみと、そうつぶやいた。

 1・4ドーム興行での藤波といえば、真っ先に思い出されるのは、あの〝伝説〟の出来事ではないだろうか。

 今から25年前の2001年(平成13年)、テレビのゲスト解説を務めていた藤波が〝社長権限〟という強権を発動して試合をストップ。超満員札止め6万2001人で埋まった館内の、大勢の観客から大ブーイングを浴びた。後に「ドラゴンストップ」として、今でもファンの間で語り草の〝珍事件〟を引き起こしたのだ。

 観客やファンの怒りを買ったのは、「遺恨凄惨」と過激な副題が付けられた長州力VS橋本真也の一騎打ち。橋本は、前年11月13日に新日プロを解雇され、12月20日に自身の団体「ZERO―ONE」の事務所開きを行った。

 前日19日に会見した新日プロの永島勝司取締役は「けさ(19日)、藤波社長の元に猪木さんから電話がかかってきた」と明かし、「解雇した橋本をリングに上げるというのは抵抗があると思うが、レスラーが怒りを表に出すのはリングでやりなさい」と伝えられたという。わずか2か月での新日プロ登場は、アントニオ猪木の意向だった。カードが発表されると2週間で前売りが2万枚さばけたという。

 さて、試合が始まるとゴングと同時に長州がコーナーを飛び出す。橋本はコーナーに背をもたれたまま。長州が蹴り上げるポーズで威カクしても、薄ら笑いを浮かべて微動だにしない。そしてリング下に降りて長州の闘志をスカす。しかし、一転リングに戻るやいなやケサ斬りチョップ、ヒザ蹴り、左ミドルキックを見舞って長州をダウンさせた。

 あまつさえ制止に入った田山正雄レフェリーまではたき落とした。ダウンした田山からタイガー服部にレフェリーが代わった。長州は顔面パンチ、ラリアートで反撃すると、橋本は再びケサ斬りチョップを連打。長州がバックドロップ、ラリアートで畳みかけると、橋本は引っこ抜くようなDDTを決めた。その後は互いに殴る、蹴る。なぜかお互いダウンした相手を一度もフォールに行かない。

橋本(左)にパンチを叩き込む長州(2001年1月、東京ドーム)
橋本(左)にパンチを叩き込む長州(2001年1月、東京ドーム)

 異常な展開に困惑した服部レフェリーが藤波の方を見て指示を仰ぐと、藤波は〝やらせろ〟と指示する。しかし、結局ラチがあかず両手で×の形を作り、ストップを指示した。もうひとりのゲスト解説・山崎一夫に「止めないんですか、藤波さん」と促されたこともキッカケになったのだろうか…。

 藤波はリングに上がるとマイクで「これはもう試合じゃない! 我々は殺し合いをしているんじゃないんだ。わかってください」。そう言って15分20秒、両者レフェリーストップの裁定が下された。

 実のところ、藤波のマイクは〝例にもれず〟滑舌の悪さとマイクの反響もあり、何を言っているのか観客にはわからなかった。かろうじて「わかってください」だけが何とか聞き取れた。観客にはなぜストップしたのかが不透明で「茶番だ!」「金返せ!」「詐欺だ!」などの怒号が渦巻き、引き揚げる際に罵声が飛んだ。
 
 試合後、長州は意外なほどサバサバしていたが、橋本は大荒れ。ドーム控室のテーブルを投げ倒し「新日本はこんなもんじゃなかったはず。ふざけんな!」とわめき散らし、「こんな試合は恥ずかしくて、とても猪木さんには報告できない」と肩を落として会場をあとにした。

 改めて藤波に話を聞いた。

「泥仕合じゃないけど、あの(リングの)中に長州を置いときたくなかった。オレとやった(※『名勝負数え唄』と言われた一連の試合)、長州の輝きを知ってるだけにね。お客さんからブーイングが来ようがなにしようが、長州をさらし者にしたくなかった」と長州を思いやってのことだったと明かす。

「『あいつとは試合したくない』。そういう試合を組めばお客さんは喜ぶ。でも、それをやっていい時と悪い時がある。オレと長州も最初そうだった。いくら感情的になっても気持ちの中にプロレスっていう、自分たちがお客さんの前で体を張って勝負をするという、そういう気持ちがないと」と断言。

「(山崎の助言は)彼もUWFにいて…Uと新日本って感情的にやり合ってた。オレも前田(日明)と感情的な部分はあるけど、試合は絡むでしょ(※成立させるの意味と思われる)。名勝負って、どこかで一線をわかってないと絶対いい試合は生まれない。橋本―長州戦は路上のケンカ以下。ファンに提供する以前に、お互いに気持ちが先走ってるから、これは(ファンに)見せるべきではないなって。あの場を終わらせて何もなかったことにしたい。そういう気持ちの方が先だったね」と笑う。

 そして「あとあとファンの罵声を浴びた、浴びた。でも『この試合止めてほしい』ってファンも多分いっぱいいたと思う」と振り返った。

 試合を止めたことに怒ったファンの方が圧倒的に多かったように思うが、目撃したファンは〝新日本プロレス事件簿〟の証言者になったことだけは間違いない(敬称略)。【プロレス蔵出し写真館】の記事をもっと見る