【赤ペン!】長嶋茂雄さんならではの華麗なプレーの一つに三塁守備がある。6月3日に死去して以来、再三テレビで放送されていたので、若いファンも見たことがあるだろう。

長嶋茂雄さんの送球は華麗だった
長嶋茂雄さんの送球は華麗だった

 ゴロに向かって猛然とダッシュし、一塁へ矢のような送球を披露して右手の指先をヒラヒラ。あの手つきは「歌舞伎の団十郎が見えを切る所作を取り入れた」と、長嶋さんが自ら明かしていた。

 しかし、このプレーをマネする選手は一人もいなかった。その理由について「ミスタードラゴンズ」と呼ばれた名二塁手、元中日の高木守道氏はこう語っている。

「長嶋さん以外の選手が同じことをやっても全然サマにならないんです。定位置よりもずっと深いところで守り、ショート正面のゴロをさらって、ボールを持ったままマウンドの後ろまでダーッと走り、そこからビューッと一塁へ送球する。なんちゅうのは、本来は全く余分な動きだから」

 ところが、長嶋さんがこれをやるとスタンドから万雷の拍手。送球で右手をヒラヒラさせると、感に堪えないようなどよめきまで起こった。

「お客さんがホオオ~ッという声を上げるんだ。長嶋さんのプレーには、そういう独特の雰囲気を醸し出す余韻があった」

 長嶋さんはセカンド・土井正三氏、ショート・黒江透修氏に守備を指導することにも大変熱心だった。以下は土井、黒江両氏に聞いた話である。

 当時、遠征先の旅館では主力でも3人1部屋。長嶋さんは寝る前になると土井、黒江を布団の上に正座させ、体を動かして見せながら、こんなふうに言って聞かせた。

「ゴロはヒザで捕るんだ、ヒザで。捕ってもすぐ投げちゃいかんぞ。待って、粘って、ランナーと送球とどっちが速いか、そういうタイミングでビューッ!と投げるんだよ」

 そう言って、長嶋さんは右手の指先をヒラヒラさせて見せるのだ。話に熱が入ってくると、話題がいつの間にか人生論に及んだこともあった。

「人生は大波小波、ややもすると荒波もあるが、野球選手はそうであってはいけない。こういう波の激しい中にあっても」

 長嶋さんはそう言って両手を大きく上下させたかと思うと「我々の人生はこういうさざ波のようにあるべきなんだよ」と、また右手の指先をヒラヒラと揺らせた。

「さざ波のように生きることが、野球選手として平和な人生を送ることにつながる。分かるか?」

 そういう長嶋さん自身は、かなり波瀾万丈の人生を送られたようだが。