鹿児島国体高校野球硬式の部の1回戦が10日に鹿児島市の平和リース球場で行われ、花巻東(岩手)は履正社(大阪)に1―9で7回コールド負け。高校通算140本塁打を誇る佐々木麟太郎内野手(18=3年)は3打数無安打で高校野球最後の公式戦を終えた。プロ注目のスラッガーは進路についてプロ志望届を出さず米国の大学へ留学する方針を表明。今秋のドラフト会議にかかることなく海を渡る決断を下した裏側には「NPB本命球団」と「ネット中傷」が知られざるキーワードとして見え隠れする。

 超高校級スラッガー・佐々木麟が大方の予想に反し、米国を新たな拠点とする道を選択した。国体参加直前まで米国に渡り、名門バンダービルト大など複数の米大学野球部の施設やMLB球団施設を現地視察。花巻東OBで先輩のブルージェイズ・菊池雄星投手(32)、エンゼルス・大谷翔平投手(29)と米国で対面し、助言を受けたことも背中を押されるきっかけになったようだ。

 ちなみに12日が提出期限となっているプロ志望届を提出すれば、佐々木麟は間違いなく26日のドラフト会議で超目玉候補となるはずだった。

 実際に舞台裏では複数のNPB球団が、今秋のドラフト上位指名をもくろんで佐々木麟を徹底マーク。さながら〝争奪戦〟の様相を呈していた。

 実はソフトバンクも、その中の1球団だった。「王球団会長の命を受けた城島球団会長付特別アドバイザーがわざわざ花巻東のグラウンドにまで足を運び、別のタイミングでは球団幹部も現地へ視察に訪れるなど昨年から一気に〝猛攻勢〟をかけていた。ソフトバンクは35歳となったチームの主軸・柳田悠岐の後釜候補として麟太郎に白羽の矢を立てていた」(球界関係者)

 西武も2009年ドラフトでは同校OBの菊池を当時の渡辺監督(現GM)が6球団競合の末、指名交渉権を引き当てて入団にこぎ着けている。そうした縁深い経緯もあり、一連の不祥事で今季を棒に振った主砲・山川に代わる〝将来の4番候補〟として佐々木麟を今秋ドラフト指名候補のトップにリストアップしていた。

 ただ、佐々木麟本人にはつい最近まで実父の花巻東・佐々木洋監督(48)と綿密に相談を重ねながら胸の内で「本命」とされるNPB球団の存在があったという。岩手球界関係者は「近年の若手育成のうまさ。また現場を指揮する秋田生まれの中嶋監督に同じ東北人としての粘り腰、捕手出身監督ならではの『思慮深さ』と『采配の妙』が目立つオリックスをひそかに意中球団の筆頭としていた」と打ち明けている。

 そんな本命球団までありながら佐々木麟が選んだ進路は「米大学留学からのメジャー挑戦」という、いわば〝未開ルート〟だった。NPBを経て夢のMLB入りを狙う場合は正規のルール上で一軍昇格から海外FA権取得まで9年を要する。しかし、米国の大学で成功すれば最短で21歳になった時点で、指名対象となる25年のMLBドラフト会議で指名を受けられる可能性も出てくる。

 加えて米国大学留学を選択した背景には佐々木親子が人知れず、高校生活中に苦しめられ続けてきた中傷に対する「防衛策がある」(前出の岩手球界関係者)という。身長184センチ、体重113キロの恵まれた体格を持つ佐々木麟。しかしながら有名になるにつれ、その体形や故障歴、限定的な守備位置に関する心ないバッシングもSNSやネット上で飛び交うようになっていた。

 花巻東に近い関係者は、麟太郎の米大学留学を後押しした佐々木監督の〝本心〟について「進学するにしてもプロへ進むにしても、このまま国内にいては状況は変わらない。その部分で偏見を持たれないアメリカの静かな環境で野球に集中させてあげたいという親心」と解説している。

 思えば菊池、大谷も当初はNPBを経ずメジャーを目指そうとした。道なき道を行くのが「花巻から世界へ」を教育理念とする花巻東の教え。偉大な先輩2人の成し得なかった厳しい進路をあえて佐々木麟が選択したのは、ある意味で必然なのかもしれない。