【球界こぼれ話】体は小さくても相手打者を次々と剛球でなぎ倒す――。そんな小兵投手が今、日本ハムで飛躍の時を迎えている。今年6月に中日からトレードで加入した山本拓実投手(23)である。

 6年目右腕の身長は167センチ。一見するだけではプロ野球の投手には見えない。だが、体全体を使って投じる直球は威力抜群で、地を這う剛球は150キロ超えも珍しくない。日本ハム移籍後はこの直球と切れのあるスライダーなどを武器に主に中継ぎとして14試合に登板。防御率1・98という安定感を誇る。エンゼルス・大谷翔平(身長193センチ)やロッテ・佐々木朗希(同192センチ)ら上背ある投手が全盛の野球界でこの活躍は異例であり快挙だろう。山本拓はどのようにしてこれほどまでの出力を生み出せる投手に成長したのか。

 先日、本人に聞くと「とにかく中学、高校時代に走ることで下半身を強化しました」と当時を振り返りながらこう話してくれた。

「下半身が強くないとやはり速いボールは投げられない。だから中学のころは坂道や階段を常に走っていました。坂道ダッシュとかは毎日やっていましたし、人の倍以上走った自負はあります。高校2年になってウエートトレーニングを取り入れ、球速が最速148キロまで上がりましたが、そこまでの基礎体力はやはり走ったことで培いました。球威を上げられたのはそのころ徹底的に走ったことが大きかったと思います」

 生まれつき小柄だったゆえに周囲からは威力ある剛球を投げても「身長がないから」と中学までは内野手に回されたこともあった。小兵選手にありがちなこの周囲の「決めつけ」。そんな既成概念にあらがうためにも「投手としてやっていける」というアピールを片時も忘れなかったという。

「野球をやっていると『体が小さい』というだけで投手を否定されることは多い。だからこそ当時は練習中のキャッチボール時から、少しだけみんなより長い距離を投げたり『投手がいなかったら僕が投げますよ』と自分から投手を買って出たりとか。そういうことはちょくちょくやっていました(笑い)。ただ、セカンドやショートを守らされたおかげで中学、高校で肩を消耗しなかったことも事実。内野練習でショートスローが得意になりそれが現在の制球力にもつながっていますから。今では小さい体でよかったなと思っています。中学から投手専門でやっていたら今頃こうやってプロで投げられなかったかもしれませんしね」(山本拓)

 体格差をハンディと捉えず、置かれた状況下で努力を積み好機をつかむ。小柄な体格でプロ野球を夢見る少年少女に勇気を与え続ける23歳。新天地でファンが急増中なのもうなずける。