いよいよカウントダウンの始まりや。阪神が16日の広島戦(マツダ)に5―3で勝ち、18年ぶりとなるリーグ優勝へのマジック「29」を点灯させた。残り37試合で2位・広島とのゲーム差は8と、ここへきて一気に抜け出した格好だが、もちろん岡田彰布監督(65)は冷静沈着に〝詰め〟を間違えるつもりはない。そんな指揮官のたたずまいに、ネット裏のOBからは、あの名将をほうふつとさせる「令和の魔術師」との声も飛んでいる。
106試合目にしてともったアレへと続くかがり火。だが試合後の岡田監督は「まだまだそらアレよ。全然関係ないよ。どこと優勝争いしているの? 俺らは一つずつ勝っていくだけやんか」と素っ気ない態度を貫いた。選手として指揮官として、酸いも甘いもかみ分けてきた百戦錬磨の老将は、わずかな油断や緩みがチームに入り込む余地を一切、許そうとしなかった。
今季ここまでの阪神は1点差ゲームを20勝8敗。接戦での強さが特に際立つ。チームの長年にわたる慢性的な課題だった得点力不足と守備難を就任1年目で見事に解決し「勝てるチーム」へと変貌させた岡田監督の手腕は、野球ファンのみならず〝玄人筋〟の球界OBたちからも高く評価されている。
選手、コーチとして広岡達朗氏、西本幸雄氏、野村克也氏ら多くの名監督と接した本紙評論家の伊勢孝夫氏は、岡田監督の指揮官としてのたたずまいを「三原のオヤジによく似てきた」と球史にその名を刻む名将中の名将・三原脩氏と重ね合わせ、こう続けた。
「カウント0―1からでも走者が二塁に進めば迷わず代打・原口。終盤の勝負どころでは1イニングで代走を2枚、3枚と惜しみなく使う。一つひとつの決断に迷いがなく素早いのは、あらゆる事態を事前に想定し準備しているからやろな。二手、三手先を読み切れている点は三原のオヤジにそっくりやなと思うんや」
伊勢氏は現役時代の1968年から近鉄監督に就任した三原監督に見いだされ、レギュラーに定着。4年連続で最下位だった近鉄は、優勝争いの常連にまで一気に急成長した。
「オヤジはようサングラスかけとってな。視線は分からんのやけど選手のこと見てないようで、よう見とったんや。岡田監督もそうやろ。近本が負傷離脱していた期間に森下を代役として起用してブレークさせたし、ノイジーがコンディションを落とした際にはミエセスや前川、小野寺を使っていい仕事をさせた。選手の実力だけでなく(選手が)持っているツキも見逃さない。そういうところもかぶって見えてしょうがないんや」
奇策を用いて〝魔術師〟の名をほしいままにした三原氏。理詰めの〝普通の野球〟を標榜する岡田監督とは正反対にも映る。だが伊勢氏は「オヤジが本当に奇想天外なことをしたのはせいぜいオープン戦くらい。〝エサをまく〟ためやな。シーズンが始まれば一見奇策に見えても、その背景にはオヤジなりのキチンとしたデータと理屈があった。(2番に強打者を置く)『流線型打線』にしても50年以上たってから正しかったと証明されたもんな」と語る。
三原氏の教えを受け継いだ仰木彬氏も「仰木マジック」と呼ばれた手腕で近鉄、オリックスを優勝に導いた。現役最晩年をオリックスで過ごした岡田監督も当時監督だった仰木氏から「最も影響を受けた」とたびたび公言している。
「三原のオヤジから仰木さんへ。仰木さんから岡田監督へ。受け継がれているものは確実にあると思う」と語る伊勢氏は「ノムさんがよう『監督の采配で勝てる試合は、せいぜいシーズンで5、6試合程度』って言っとったんやけど、今年の阪神はそういう試合がすでに5つ以上は確実にあったやろ。岡田監督も名将と呼ばれる域に来とるんやろな」と、自身の恩師の系譜を継ぐ「令和の魔術師」の誕生を実感しているという。
阪神を2度優勝させることができた監督は2リーグ分立以降では藤本定義氏一人だけ(62、64年)。岡田監督が第一次政権時の05年以来、18年ぶりとなるアレを成し遂げれば、その名は球団史に刻まれることになる。












