7点差でも、甲子園の空気は最後まで切れなかった。阪神は20日の中日戦(甲子園)で、0―7の劣勢をひっくり返し、8―7で今季初のサヨナラ勝ちを収めた。

 9回無死、森下翔太外野手(25)が左翼席へ11号ソロを運んで決着。サヨナラで7点差以上を逆転したのは球団史上初の快挙で、試合のなかった首位・ヤクルトとのゲーム差を0・5に縮めた。

 6回までの空気は完全に中日だった。阪神打線は2安打無得点。中日は2回までに4点を奪い、6回にはカイル・マラー投手(28)が左翼席へ2ランを放つなど、7回表終了時点で7点をリードした。普通なら、甲子園のため息だけが残る展開だった。

 それでも猛虎は沈まなかった。7回二死満塁から坂本誠志郎捕手(32)が中前へ2点適時打。続く代打・嶋村麟士朗捕手(22)が右前適時打を放ち、中野拓夢内野手(29)も中前適時打で続いた。一気に4点を返すと、球場の温度が変わった。

 流れを決定づけたのは、直後の守りだった。8回一死満塁のピンチで、桐敷拓馬投手(26)が無失点で踏ん張る。大量ビハインドを追う側のはずが、スタンドの声援は「ここをしのげば、まだある」と背中を押していた。

 その空気に打線が応えた。8回二死満塁から坂本が左前へ2点適時打を放ち、1点差。さらに代打・木浪聖也内野手(31)が中前へ同点打を運んだ。7回からの2イニングで7点。敗色は消え、甲子園は完全に勝ちに向かう球場へ変わっていた。

 試合後の藤川球児監督(45)は「あんまり見たことないですね。タイガースでずっとプレーをしてきましたけど。びっくりするようなゲームになりましたね」と冷静に振り返った。驚きは隠さなかったが、浮かれるだけではない。「ゲームに勝てれば、これだけたくさんの方に喜んでもらえて、選手も非常にのっていますから、いい日でしたね」と受け止めた。

 序盤に崩れた茨木秀俊投手(21)、石黒佑弥投手(24)にとっては苦い夜でもあった。だが、その失点を捕手、代打、救援、主軸、そして甲子園の虎党が一体となって取り返した。球団史上初の7点差サヨナラ逆転劇は、単なる奇跡ではない。藤川阪神が「まだ終わっていない」という空気を、現実の勝利に変えた夜だった。