【プロ野球 天の声・ウグイス嬢たちの素顔(4)】今回は神宮球場でアナウンスを担当し、今年でウグイス嬢33年目のシーズンを迎えた川路麗さん(51)だ。最近では様々な個性が出てきた業界で「私はあくまで、昭和のアナウンスにこだわりたい」と語る川路さんの仕事へのこだわりと——。

 名は体を表すという言葉がある。「麗(うらら)」という名前が示すように、この人には自然と周囲を引きつける華がある。

 年齢が近く、親交があった古田敦也氏(現評論家)が川路さんの結婚式の際に寄せたコメントが秀逸だ。「麗さんは顔もきれいだし、声もきれいだし…」。最後は「今日はめでたい日なんで、これぐらいのおべんちゃら言っとけばいいでしょうか」で締めくくられ、場は大盛り上がり。大物からユーモアあふれる祝辞が届くことからも、川路さんのチャーミングな人柄がうかがえる。

 営業担当としてヤクルト球団に入社したのは18歳の時。仕事の一環としてアナウンス業務があり、二軍からスタートし、今に至っている。

 そんな川路さんは大ベテランとなった現在でも向学心は旺盛だ。最近、購入したいと考えているのが正しいイントネーションを教えてくれるアプリ。そこには、こんな思いが隠されていた。

「年を取ってキャリアを積むようになって、昔は若気の至りでごまかせたんですけど、今はできて当たり前だと思われる。今のほうが苦労してます」

 改めて、仕事と向き合うきっかけになる出来事もあった。数年前に当時、チームで守備走塁コーチを務めていた馬場敏史氏(現ハンファ・イーグルスコーチ)からアナウンスミスを指摘された。

「同級生なんですけど、けっこう真面目に『ちゃんとやれよ!』と言われて…。皆さん(アナウンスに)そこまで興味ないじゃないですか。そういうふうに言われたのは初めてで、『ちゃんとやらなきゃいけないな』『もっと集中して、気合入れなきゃ』と思いました」。厳しい言葉をかけてくれた馬場コーチには感謝しているという。

 また現在は盛り上げ役を男性DJが担当、川路さんは常に整然とした試合進行役を心がけているが、実はひそかなこだわりも持っている。

「(発声を)ためるのが好きなんですよ。抑えの選手が登場する時など『〜に代わりまして』の後に、(名前を)コールする前に少し空ける。そうすることで出番が分かっていても、ファンの方が盛り上がってくれるじゃないですか」

 わずかな違い。熱心に聞いていないと分からないかもしれない。ただ「その部分は私にしかできない部分だし、私のできる範囲で盛り上がってもらいたい」と願っている。

 ウグイス嬢の形態も変化し、現在はパフォーマンスを重視する傾向もある。それでも「私は昭和にこだわります。他球団でいえば巨人さんのアナウンスが好きなんです。粛々と読まれるじゃないですか」。

 自身のスタンスを貫き、今日も抑制の利いたアナウンスで神宮球場を盛り上げている。

☆かわじ・うらら=1965年3月12日生まれ、熊本県出身。熊本女子商業高校(現国府高校)卒業後、83年、ヤクルトスワローズに営業担当として入社。好きな食べ物は馬肉。趣味、ゴルフ、釣り、カラオケ。血液型=A。営業部営業企画グループ主事補。