巨人・原辰徳監督(55)の“異次元采配”がまたも炸裂した。5―12で阪神に完敗を喫した11日の試合で、最も盛り上がったのは6回の守備。指揮官が繰り出した「内野5人シフト」に東京ドームは騒然となったが、結果的にこの作戦が裏目に出て大敗につながった。だがこれを単なる失敗と断じるのは早計で、裏には指揮官なりの深謀遠慮があったという――。

 東京ドーム全体がどよめいたのは、巨人先発の大竹が阪神に2―4と2点を勝ち越されて降板し、2番手の左腕・青木が一死二、三塁で左の今成を迎えた場面だった。

 原監督がおもむろにベンチを出て、マウンド上に外野手3人を含めたグラウンド上の選手を全員集合させる。そして身ぶり手ぶりで守備陣形を指示すると、左翼の亀井が内野用グラブに持ち替えて一、二塁間へ移動。外野は長野と松本哲の2人が、それぞれ右中間、左中間に陣取った。

 だがここで阪神ベンチが今成に代打・西岡をコールすると、巨人も一度は通常の守備隊形に戻した。ところが青木が西岡を2―2と追い込むと、原監督は再び「内野5人シフト」を発動。今度は亀井が三遊間の位置へ入り、遊撃の坂本が二塁ベース付近へ移動した。

 スタンドのざわめきが収まらないなか青木が5球目を投じると、西岡の打球は明らかに守りが手薄なエリアを狙った右翼線へのファウル。それでも巨人ベンチは動かない。続く6球目を西岡がはじき返すと、打球は無人の中堅方向へ飛んでいった。

 通常シフトなら平凡な中飛だ。だが打球は左右から追いかけた松本と長野の間を抜け、走者のゴメスとマートンが一気に生還。決定的な2点を奪われて勝負は決した。

 伝統の一戦で赤っ恥をかいた原監督は試合後、内野5人のシフトについて「どういうふうに映ったか。見ての通り。勝負にいったというところ」と淡々と説明。西岡に対して途中からシフト変更した点を聞かれても「今成からピンチヒッター(西岡)になり、コンティニュー(続けた)ということ」と多くは語らなかった。

 現在チームは首位で、時期はまだ7月。さらには2点差の試合中盤にあえて「勝負」に出る必要があったのか。川相ヘッドコーチは「監督とは以前から(内野5人シフトを)やろうという話をしていた。そのタイミングが今日はあの場面になった」と語ったが、練習もしていない選手たちには寝耳に水だった。

 結果が最悪だっただけに、試合後は采配への異論が噴出した。それでも監督に近い関係者は「思いつきとは受け取らないでもらいたい」と言うと「今日の場面でやる必要があったのか聞かれれば、言葉に詰まります。ですが今回取った作戦は、秋の短期決戦をにらんだ“危機管理”でもあり、『巨人の野球を前進させる』という監督の挑戦心の表れなのです」と指揮官の意図を代弁した。

 つまりは昨年敗れた、日本シリーズ第7戦の土壇場など、1点もやれないケースを想定しての采配ということ。原監督には目の前の阪神や西岡などは眼中にはないというわけだ。

 周到に頭の中でシミュレーションを重ね、まさかのタイミングで選手を試すのが、今季の原監督流の危機管理術。ときに唐突に映る采配にも、一部選手は驚きを見せず対処するようになってきている。

 内外野を忙しく走り回った亀井は「(シフトの)練習はしていなかったけど、僕は内野経験がありますから」と語り、片岡も「以前の対戦でゴメスのときに(内野手が極端に左へ寄るシフトを)やっていたから驚きはなかった」。大黒柱の阿部は「(亀井が入った三遊間方向へ)ゴロを打たせたかったけど…」と結果に悔しそうだったが「『今後の試合ではこういうこともやるんだぞ』という監督の意図は選手に伝わっている」と話した。

 まだまだ全体とはいえないが、原監督が目指す“異次元野球”は着実にチームに浸透しつつあるようだ。