勝利を呼び込む力投だ。阪神は11日のヤクルト戦(甲子園)に2―1で今季3度目のサヨナラ勝ち。単独首位を守った。

 2回に佐藤の17号ソロで先制し、先発・伊藤将が7回3安打無失点。試合は1点リードで8回に入った。ここで藤川球児監督(45)が送り出したのは工藤泰成投手(24)。今季初めて1点リードの8回を託された右腕は、先頭・中村に中前打を浴び、続く代打・塩見の三ゴロを佐藤輝が失策。さらに内山を歩かせて無死満塁と、絶体絶命のピンチを招く。

 だが、工藤は崩れなかった。次打者・岩田を投ゴロに仕留め本塁送球で一死満塁。続くセデーニョには163キロの直球で空振り三振を奪った。自己最速にして、スアレスに並ぶ球団最速タイの数字が甲子園を揺らした。

 最後は甲子園の虎党の声援にも押され、サンタナを空振り三振でスリーアウト。24球を費やして無死満塁を無失点で切り抜けた。数字以上に大きいのは、味方のミスから招いた危機を力でねじ伏せたことだ。

 藤川監督は「ミスが起こらないことを求めるのは当然ですけど、それが起こったとしても、何のことなく乗り越えていくチームを作っていかなければいけない」と落ち着いた口調で語りつつ、工藤の投球にも賛辞。「球場とともに(工藤が危機を)乗り越えていくのが見て取れたイニング。ゾワゾワっとしましたね」と振り返った。

 9回に守護神ドリスが連打で広げたピンチから、長岡の併殺打の間に同点とされ、伊藤将の363日ぶりの白星は消えた。それでも9回裏。一死から左手首骨折から復帰した近本が、中前打で出塁する。復帰後初安打を中野が四球でつないで一、二塁とすると、森下翔太外野手(25)がリランソから左前打。処理を焦った左翼・山野辺の失策も重なり、近本がサヨナラのホームを踏んだ。

「決めてやるという思いでした。チカさんが来たことで勢いが変わる」。森下はそう言い切った。帰ってきたリードオフマンが走り、勝負強い森下が決める。猛虎らしい景色が戻った。その手前にあったのが、工藤が身をていして試合をつないだという事実だ。

 試合後のお立ち台には森下が立っていた。だが、ヒーローは一人ではない。この夜のサヨナラ勝ちは、工藤が投じた魂の24球から始まっていたのかもしれない。