【中島輝士 怪物テルシー物語(96)】2020年から24年にかけての5年間、私は京都先端科学大の硬式野球部の監督を務めさせていただきました。決して野球の強豪校というわけではありませんが、レベルが低いというわけでもない。木製バットのヘッドを走らせるという部分を理解してもらうために、どうやって指導すればいいのかという問題にぶち当たったことがありました。
そこで、練習用のバットの製作を工場に依頼することになるのですが、面白いバットを開発することになりました。その際に参考にさせてもらったのは日本有数の腕を持つ剣士の見解でした。大阪府警に所属する牛島辰徳さんは私と同じ佐賀県出身で剣道の全国警察大会団体優勝の経験もある人物です。
私はバットスイングは剣の道にも通じると考えています。刀を振るという動作とバットのヘッドを走らせるという動作には共通点がある。そのためには小指、薬指をうまく操り力点から作用点に力を効率的に伝えなくてはならない。指先の感覚を研ぎ澄ませれば脳にも刺激がいく。
昨今、バットを力で振ろうという風潮があることは確かです。ただ、私はバットを手のひら全体で握るのではなく、フィンガーグリップで握る方が操作がしやすいと考えています。3冠王を3度、経験されている落合博満さんもフィンガーグリップです。
私は野球のグラブを開発しメーカーを立ち上げていましたから、バットの工場も知っています。大学の監督就任2年目の21年にバットのグリップエンドに小指と薬指をかける溝を開けてみようと考えました。最初は3つの溝を彫ったのですが、強度に問題がありました。さらに違和感もある。そこを経て、2本の溝を彫ったバットを開発しました。
すると選手たちのスイングがインサイドアウトに修正されていくことが分かりました。最初は商品としては考えておらずトレーニング用として開発しました。自然とバットの軌道を修正することができる、なかなかいいなと思っていたら、筑波大コーチ出身の本学・梶田野球部副部長の力添えで測定した結果、スイングスピードが向上するというデータも上がってきました。
小指と薬指の部分に入った特殊な溝の効果で自然に正しい握り方が身につき、スイング修正が可能。腕、リスト、指先までを意識できることによってバットコントロールとスイングスピードの向上が期待できます。
25年シーズン当初、MLBで魚雷型バットが話題になりました。これがいい悪いは別として、バットという道具に世間の興味が向くというのは野球人としてはうれしいことです。私が考案したバットも製品化し「T―Gripバット」としてアマ野球でも使用が可能となりました。他大学にも声を掛けたら購入していただけて、徐々に広まっている状況です。
しかし、難しいのは打撃に正解はないという点です。選手個々に体形や体を動かす際のクセも違います。結果が出た打ち方が成功例の一つとなります。このバットを使用して新たな発見をしてくれる打者が一人でも増えてくれればありがたい限りです。
いよいよ次回は最終回です。これだけ長く続けさせていただいた連載でも書き切れないことがたくさんあります。どうか最後までお付き合いください。











