【中島輝士 怪物テルシー物語(93)】2017年にKBOのハンファ・イーグルスで一軍打撃コーチを務めた後、同年10月の契約満了で私は日本へ帰ってきました。ずっと野球に携わる仕事をしてきて縁あって台湾、韓国のプロ野球にも関わることができました。帰国したタイミングで次はどんなアプローチで野球に関わっていくかと考えていた時、アジアのプロリーグで使用されている野球道具のことに思いが及びました。

 日本の野球ファンの皆さんならご存じの通りですが、日本のモノづくりというのは繊細で丁寧かつ丈夫。何かにつけて品質が高いですよね。おそらく、NPBの一流の野球選手たちが使用しているグラブやバットは世界でも最高品質のものだと思います。

 私が17年に韓国で指導者として野球に関わった期間も、やはり選手たちの道具に目がいきました。我々にもなじみがあるブランドのワッペンを縫いつけてあるグラブもたくさん見たのですが…。なんでしょうか、私が知っている各メーカー、ブランドのイメージとは違う商品に感じて仕方がなかったんです。

 詳しい事情は分かりませんが、つまり日本のブランドのグラブなのに日本の職人さんが関わった日本製、メイド・イン・ジャパンではないんです。私が知る道具との品質に差があったわけです。それなら自分のメーカーを作りたいなという思いに駆られました。その結果、感謝の意味を込めた「THANK」というブランドを立ち上げて、グラブを製造することを決めました。

 私は福岡・柳川高出身ではありますが、地元は佐賀県の旧吉野ヶ里町なんですね。佐賀県といえば有名なのは佐賀牛。もちろんお肉で有名であることは周知の通りですが、その革を使ったグラブの開発を始めました。「佐賀牛」というブランドはすでに商標登録されて使えないなどのハードルもありましたが、そこはさすがに地元です。関係してくださった皆さんのおかげで、佐賀牛を使ったグラブを作り上げることに成功したんです。

 商品を開発した際には東京の丸の内で展示会も行いました。高校野球の佐賀北高が甲子園で優勝した頃に流行した「がばい」という佐賀の方言を覚えていますかね。それにちなんで「Gabai leather」(がばいレザー)と刻印されたグラブです。

 通常のグラブは北米や欧米の食用牛の皮をなめした革を使用しますが、欧米の牛は脂が少なくて皮が厚い。佐賀牛にはサシが入っていますが、皮は薄くて繊維が強く柔らかい。皮にも脂が自然に入っていて長持ちする上に手にもなじみやすいんです。

 それでも、過去にグラブに加工したことがない革に仕上げるまでには半年以上かかったんですかね。さらに、肉よりは高価ではないものの、北米産牛の革に比べて和牛の革は2割ほど高いんです。商売としての流通コストを含めた採算性を考えるとハードルはたくさんありました。

 それでも故郷・佐賀の人脈を駆使して、畜産業者から直接、なめし業者に卸すルートを開拓するなどコストダウンに挑戦。いろいろ苦労したこともいい経験です。このストーリーをもう少し続けさせてください。