【橘高淳 審眼(49)】これまでの審判員生活の中で、いろいろな場面に出くわしてきました。現在は審判員を引退していて、自分からあの試合はこうだったかな、あのプレーはどうだったかなと考えたりすることはありませんが、こういったコラムのご依頼を受け、質問を受けると当時を思い出します。

 審判員として現役だった時代からある意味、野球には冷めていますから。個人、個人の成績やチームのスコアも覚えてはいないですし、どっちが勝ったか負けたかという結果も忘れてしまっていることも多々あります。審判員同士でロッカーで各チームの勝ち負けが話題になることもありませんでした。

 トラブルなく何事もなく試合が無事に終わっている。これが審判員にとってはいいことであり、スムーズな試合進行ができたという証しになります。ただ、何もないのが当たり前で、トラブルがあった時には話題になってしまう。トラブルになってしまったプレーに関しては、もっとこうしていればよかったかなと、反省はしますがそれを引きずるということはありません。

 判定をするにはいい位置に入ることが大事です。フォースプレーならベースから自分との距離がどれくらいであれば安定して見ることができるのか、タグプレーなら死角にならない位置に入ることができるのかを意識します。これに関しては長年の経験で培ってきた適切なポジショニングがモノをいいます。野手が捕球した体勢や、送球時の選手のバランス、各選手のクセなどから判断し最適な場所を判断します。本塁の判定であれば捕手の左肩後ろに立って送球を待ち、送球コースによって左右どちらに動きを振りミット(タグ)の見える位置に動きます。

 あとはボールがどちらにそれたなど、送球が手から離れた後の一瞬でポジショニングを決めその場での判断となります。今はコリジョンルールがあるため、本塁のクロスプレーでの確認位置はほぼ決まってきますが、これもそれぞれの野手からの送球によって臨機応変に対応します。

 同僚から「あのプレーの判定、いい位置でよく見てたな」などと評価された時にはうれしい気持ちにもなりました。キャンプから各チームの練習に出向き、シートノックなどの練習が行われている時も判定を行うポジショニングの練習を行います。走者を置いてのゲーム形式での練習は、審判員のフォーメーションの確認なども含めていい練習になります。若手の審判が同行している場合には、ポジショニングに関してのアドバイスを送ることもあります。

 30代の若者と50代後半のベテランとでは身体能力としての動きに差があることは当然ですが、速く動けるからといっていい判定ができるとは限りません。年齢を重ねた剣道の達人ではないですが、やはり長年の経験というものが重要になってくるというのは確かだと思います。

 2019年にはリクエスト制度が導入された時代で退場宣告ということもありました。これは認識や意図といった人間の主観が入った部分が含まれる難しい判断が絡む事案でした。次回は同年5月4日の広島―巨人(マツダスタジアム)で広島・緒方孝市監督が退場したプレーのお話をさせていただきます。