【橘高淳 審眼(46)】私が審判員として試合出場していた時期のほとんどは、リクエストによるリプレー検証がない時代でした。2018年から導入されていますから、最後の5年間はリプレー検証があった時代に審判員として活動しています。

 それ以前は「ビデオ見て確認せんかい」などと各球団の監督からよく言われたものでした。ただ、映像を確認しても判定が正しかった場合に「あれは審判が正しかったです」という報道がされることもないですし、猛抗議をされた監督もスルーということがほとんどでした。

 たまに「映像をちゃんと見直したらアンタが正解やったわ。よう見てたなあ」と後日言ってくれる監督もいました。これはもうこちらだって間違えることがある以上、お互いさまです。黙って引いてくれと思っていたら、実際にそうしてくれる監督もいらっしゃいましたし、悪い気持ちにはなりません。

 だからといって有利な判定をすることはないですが、審判員に対して心象を悪くさせないことは、監督の一つの技術というか才能でもあります。私はセ・リーグ管轄でしたのでパ・リーグの監督と接する機会は少なかったですが、近鉄やオリックスで監督を務められた仰木彬さんは、そのあたりの審判とのお付き合いも上手だった印象があります。

 私も人間ですから、いわれのない抗議や暴力にさらされた時には怒りで眠れない夜もありました。グラウンドやバックヤードで各球団の監督と顔を合わせた時に「この前の〇〇選手の暴力はひどかったね。大丈夫だった?」などと心配してくれる方もいました。ヤクルトの若松勉さんや広島の山本浩二さんは、そういう気遣いをしてくださる優しい性格の監督でしたね。

 こちらも、判定でモメるような試合は望んでいません。マスコミの皆さんも同じだと思いますが、試合時間が短く終わるのはうれしいことでした。試合が早く終わるということはスムーズに試合進行できた結果でもありますから、審判員としても職務に関して満足感があるわけです。その意味では、いい投手が登板してくれるのはこちらとしてもありがたい。05年から何年かにかけての阪神は素晴らしかったですね。こんなことを言っては相手チームに失礼ですが「JFK」が出てくると安心でした。

 今の阪神・藤川球児監督の現役時代、そのボールは素晴らしかったです。基本的にストライクゾーンで勝負してきますし、少しボールが高めに浮くなという日もありますが、すぐに修正できる技術も持っていました。決めつけてはいけませんが、藤川投手が登板すると心の中で「終わった」という気持ちになっていました。リリーフに失敗する確率が異常に低かった印象です。

 以前でいうと中日で活躍した与田剛投手のボールも速かったです。ヤクルトの五十嵐亮太投手、石井弘寿投手の「ロケットボーイズ」もとんでもなく速かったですね。大魔神・佐々木主浩投手も速かったです。松坂大輔投手もオープン戦で初めて見た時には、これは速いなと驚いた覚えがありますね。