空前絶後の大出世だ。阪神・村上頌樹投手(25)が28日に開催された「NPB AWARDS 2023」でセ・リーグ史上初となるMVPと新人王を同時受賞した。快進撃を生み出した転機は岡田彰布監督(66)がシーズン中に繰り出した「非情采配」。完全試合の可能性を消滅させたわけだが、その裏には未来ある若武者に悲運の末路をたどらせない知将の〝親心〟があったという。

 虎の右腕が歴史に新たな一ページを刻んだ。今季は最優秀防御率(1・75)のタイトルを獲得するなど、18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりとなる日本一に貢献。MVP&新人王のダブル受賞は木田勇(日本ハム)、野茂英雄(近鉄)に続く史上3人目の快挙だ。村上は「たくさんいい選手がいる中で1番になれたことは本当にうれしい」と頬を緩めた。

 昨季までプロ未勝利。プロ3年目での大ブレークの転機となったのが、自らも「印象に残った試合」に挙げた4月12日の巨人戦(東京ドーム)だった。

 今季初先発で7回までパーフェクト投球。だが、岡田監督は8回から継投を決断し、村上は一人の走者も出さないまま降板となった。完全試合達成となっていれば、球史に残る大偉業だっただけに村上の交代劇は大きな物議を醸した。ただ、周囲の反応とは別に当事者たちは「あれでよかった」と見解は一致している。

 村上は「抑えられたのが自信になり(その後の試合でも)ああいうふうに投げられれば、抑えられるということが分かった」。無失点で投げ終えて得られた結果こそが、その後のシーズンでも大きな支えになったという。

 そして、岡田監督は「あれで投げとって結果、打たれて負け(投手に)なってたら、自信なくしてたかも分からん」と振り返り、こう続けた。「勝ち負けより、これで自信をつけてローテーションで回っていけるという。そのスタート。あの試合がどうだったかより、その後(の登板)が大事だったと俺は思うよ」

 当時の未勝利だった村上にまずは「無失点投球」という成功体験を――。そうした判断に至った背景には、現役時代の記憶に突き動かされた可能性もありそうだ。当時、岡田監督とともに現役選手だったチーム関係者は「監督は絶対、思い出したはず」とある投手の事例を引き合いに出した。

 それが1987年、中日で巨人を相手にNPB史上唯一となるプロ初登板初先発でノーヒットノーランを達成した近藤真一だ。達成時は18歳の高卒ルーキー。しかし、華々しくスタートを切った現役生活は短命に終わった。翌年に肩やヒジを故障し、3年目以降は全く勝てず。同関係者は「その後は本人も周囲も力以上のものを常に求めていたように感じたし、若くして故障に泣いたのは、あの投球を追い求め過ぎたこともあったと思う」と分析する。成長期の〝ハードル〟を必要以上に上げ過ぎると、その後はうまくいかないという典型例だ。

 大成功よりも、まずは小さな成功の積み重ね。指揮官の〝親心〟をくみ取り、最高の栄誉を手にした男のサクセスストーリーはこれからが本番だ。