【取材の裏側 現場ノート】2023年のプロレス界は、掛け値なしのドリームマッチで幕を開ける。1月1日ノア日本武道館大会のメインイベント、グレート・ムタと米WWEのスーパースター・中邑真輔(42)の初シングルマッチだ。

 代理人を務める武藤敬司が2月21日東京ドーム大会で引退するため、ムタも1月22日横浜アリーナ大会でラストマッチを控えている。引退ロードでの両雄の邂逅が発表されると、世界中のプロレス関係者は一様に驚いた。世界最大団体・WWEのメインロースターが他団体に出場することは異例中の異例だったからだ。

 中邑によれば、WWEのスーパースターたちも「みんなアゴ外れそうになってました」。このカードの価値は、ノア最高峰王座のGHCヘビー級選手権(王者・清宮海斗VS挑戦者・拳王)を差し置き、メインに据えられている事実が証明している。

 中邑は一時、武藤の引退試合の相手としても候補に上がっていたという。紆余曲折を経て「ムタとの元日決戦」という着地点を見たが、個人的にはこれがベストな形だったのではないかと思う。仮に引退試合ということになれば、必然的にある種のセンチメンタリズムが生じる。だが、武藤は中邑戦に際し「時代を託すとか、ちょっとおこがましいからさ。そんなに重苦しく試合はしたくない。やっぱり楽しみたいよ」と心境を語っていた。

 そして何よりもこのカードが、武藤という偉大なレスラーの現役生活の「終わり」ではなく、2023年という新しい年の「始まり」に実現することに大きな意義を感じる。中邑は「2022年に数えきれないほどの大物がこの世を去り…。この激流の時代の変化のなかで掴み取った『奇跡』としか言いようがないんですよね。それが年が変わったその日に実現するって、こんな素敵な話はないじゃんって思って。だから俺は〝たぎる〟以上に〝神ってる〟なと思って」と明かした。

 著名人の訃報やロシアのウクライナ侵攻をはじめ暗いニュースの多かった22年は、プロレス界にとっても激動の一年だった。新日本プロレスの創設者・アントニオ猪木さんが死去し、中邑の所属するWWEでは総帥ビンス・マクマホンが会長兼CEOを引退するなど、時代の終わりを告げるような出来事ばかりだった。

 そん中で生まれたムタと中邑の〝奇跡の一戦〟は、引退ロードならではのマッチメイクではありながらも、これから新しい時代が到来するのではないかという不思議な期待感を抱かせてくれる。

 必然的にこの後に行われる武藤の引退試合はハードルが大幅に引き上げられるという〝副作用〟もあるが…。中邑は「僕としてはこれが武藤敬司、グレート・ムタの引退試合として受け止めてますから。後は知らねえって(笑い)。でも、自分もだし、武藤さんも不可抗力的にプレッシャーをかけられたことは、何度も何度もあるだろうし。それを乗り終えてきたからこその今があるので。誰が武藤さんと戦うかは知りませんが、武藤さんは自分で自分の首を締めたということで」といたずらっぽく笑った。

 ともあれ、中邑が日本で試合をするのは19年6月以来、実に3年半ぶりとなる。コロナ禍で苦しみ続けたプロレス界に、今年こそ明るい光が差し込みますように。日本が生んだ世界のスーパースター同士の夢対決がその起爆剤になることを祈って、日本武道館まで初詣代わりの取材に行ってきたいと思う。(プロレス担当・岡本佑介)