【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】「シバくゾォ」。覚えたての美しくない日本語。それもスペイン語なまり。大きな野太い声が西武ドームの廊下に響いた。その主は来日1年目、若き日の西武・アレックス・カブレラ。2001年3月、オープン戦が始まるころだった。

 2月の高知・春野キャンプからチームに合流していたカブレラにとって、西武ドームは初訪問。練習を終えると「ちょっと教えてもらえるか」と僕に質問してきた。

 当時は球場内に存在していた、バックネット裏からロッカールームへ伸びる108段の階段。それを指さし「こんな階段をみんなが毎日上るはずがない。エレベーターがどこかにあるはず。それがどこだか教えてくれないか」と真顔で聞いてきたのだ。

 エレベーターはないと即答したのだが「ノー、あり得ない。教えろ」と何度も押し問答。あまりにしつこいので「だったら、一塁側通路の壁沿いの緑色のドア、5枚目か6枚目くらいを開けてみたら」と突き放すと「オーケー」とご機嫌で歩き去っていった。

 そして、ほんの数分後だ。階段の下でカブレラを待っていると、冒頭の言葉を浴びせられたわけだ。

 あれから20年が経過した。西武ドームではなくメットライフドームは生まれ変わった。17年の計画発表から3年余り、約180億円を投じた大改修。関係者への内覧会や竣工式も行われ、現在はオープン戦を開催している。

 カブレラ御所望のエレベーターはまだないのだが、ついに文明の利器が導入された。バックネット裏スタンドから、地下の「アメリカン・エキスプレス・プレミアムラウンジ」へエスカレーターが設置されたのだ。

 それに伴い、ベンチ裏からロッカーへつながるあの名物だった階段は消滅してしまった。うれしいような寂しいような。このニュースを知ればカブレラはどんな顔をするだろうか。

 また、松井稼頭央(二軍監督)に仕込まれた関西弁で返してくるのだろう。

 何となく想像がつく。たぶん「シルカ、ボケ」と言うと思う。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。