味方ベンチは熱狂し、スタンドのファンは歓喜した。ソフトバンクの山川穂高内野手(32)が29日のオリックスとの開幕戦(京セラ)で、移籍後初アーチとなる決勝の1号ソロを放ち、3―1で勝利に貢献した。

 1―1の投手戦で迎えた終盤の7回。宮城の3球目、150キロ直球を強振して右中間席へ叩き込んだ。衝撃的な一発にベンチの鷹ナインは総立ちとなり「えっぐい」「マジですげぇ」と大興奮。鷹の4番を託した小久保監督の初陣で、これ以上ない大仕事をやってのけた。

 西武からFA加入1年目。今季の山川ほどシビアな見られ方をする選手はいない。昨季は自身の女性トラブルで、世間から厳しい目を向けられた。旧所属球団と山川それぞれに守るべき「立場」と「名誉」があり、意思の疎通に距離が生じた。公式戦は無期限の出場停止処分。そのままオフに入り、国内FA権を行使して活躍の場をホークスに移した。外から見れば〝不義理〟に映った。西武、山川双方に語ることのできない事情がある中で〝貝〟にならざるを得なかった。

 オフの間、猛烈なバッシングに耐える中で睡眠もままならなかった。選定していた自主トレ先に断られ、練習場所の確保が遅れて思うような調整もできなかった。じっと耐え続け、日常生活の中で心躍る場面も次第に減っていった。

 2月の宮崎キャンプ。山川の表情に明るさが戻っていた。ある大きな転機があった。「自分で性格診断テストを受けてみたんです」。迷惑をかけながらも献身的に支えてくれた家族や、批判を受け止めた球団や王会長に恩返ししたい――。ただ、アプローチを間違えれば自らを苦しめる。診断の結果「いろんなタイプがあるんですが、僕の場合はまずは自分。誰かを幸せにすると思いすぎるんじゃなくて、自分が楽しむ、幸せを感じる。そうすると周りも幸せになっているというタイプでした」。

 今も批判の声は根強く、この先も続くと覚悟している。普段通りの姿や野球を楽しむ姿に辛らつな言葉が向けられることも理解している。一方で、グラウンドで真摯に野球に打ち込む姿を応援してくれる人も多い。恩返しの〝最短距離〟を知った今、猫をかぶる必要はないと心を決めて進んでいる。

 加入以来「僕の場合はシーズンでの結果がすべて」と自らに言い聞かせてきた。開幕戦の拮抗した展開で放った決勝弾。観戦した王会長は「試合を決めるホームランだった。本人が一番、気が楽になったんじゃないかな」と優しくほほ笑んだ。辛抱の末にかけた理想のアーチが、望んでいた答えを生んだ。