【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】今月上旬の「ONE PIECE」ナイトでドジャー・スタジアムを埋め尽くした異様な数(5万2000人)の麦わら帽子を眺めながら、ある選手との会話を思い出していた。

「球界の麦わらのルフィ」ことジャズ・チザム。彼のことを書こうといくつか記事を読んでいて、正直、しばらく涙が止まらなくなってしまった。

 ジャズは最近だと、試合中にロリポップ(スティックアメ)をなめながらフィールドで守備をして監督にたしなめられたり、中継用に埋め込まれていたカメラが二塁付近の地面から飛び出し、引っ込まないので足で踏んだり、土をかけたりして試合を進めようとした様子がおかしくて話題になったが、ファッションや言動などでもちゃめっ気とやんちゃ感たっぷりのカラフルな個性の持ち主としても知られる。

 たとえ反感を買うことになろうとも、いつでも真っすぐに自分を表現するところなどが、愛されキャラのゆえんでもある。

ヤンキースでも「問題児」扱いされることのあるチザム(中央=ロイター)
ヤンキースでも「問題児」扱いされることのあるチザム(中央=ロイター)

「ルフィはまるで僕なんだ」。今年3月のWBCで、ジャズにいつも着用しているルフィの麦わら帽子の形をしたネックレスの意味を聞くと、一瞬で相好を崩し「小さな島から大きな海原(大リーグ)へ。ルフィの生きざまは僕の生きざまそのものだと思うし、これまで困難を乗り越える上で何度も勇気をくれた。いつも心のそばにある大切な存在」と大事そうにネックレスを握りながら、あどけない笑顔を見せてくれた。大の男性をキュートと表現するのもなんだが、その表情がまるでルフィのような「ニカッ」と笑顔で。

 ジャズがソフトボールのバハマ代表選手だった祖母パトリシアさんの影響で野球を始め(ルフィは海軍の英雄である祖父に育てられた)、バハマでは裸足で走り回りながら野球をやっていた。12歳でカンザス州にある全寮制の私立校に高校を卒業するまで留学(東の海を旅立って冒険)していたり、漫画にも出てくる実在した「黒ひげ」エドワード・ティーチはバハマの首都ナッソーを拠点に海賊共和国を築いていたことなど、知れば知るほど2人が重なり、今では片方の名前が出ると2人の顔が思い浮かぶ。

 そのジャズと初めて話したのは約2年前。彼がまだマーリンズにいた頃で、当時のイメージは確か「たまに話題になる派手な人」で、名前が覚えやすかったことと、バハマという出身地の珍しさから話をしてみたいと思っていた。

 独特な空気感とペースを持った彼。質問中じっと見据えられた時は少しドギマギしたが「野球以外だったら、僕はアート全般が好きかな。ファッション、デッサン、絵画。音楽は僕にとってはアートで、曲を作るのも詩を書くのも好きだ」。ここから15分間、音楽作りの話で盛り上がった。

「まずビートを知り合いのプロデューサーに頼むんだ。その時の気分によるんだけど『今すぐ曲を作りたい』って時は、スタジオに着くまでビートは聞かない。イヤホンをつけて再生した瞬間から言葉がどんどん浮かんできて、そのまま曲になっていく。たまにじっくり詩をつけたいビートもあるけど、だいたいはその場で初めて聴いて、そのまま『マイク入れて』って言って歌い始める」

 実は幼い頃から教会で歌っていたというジャズ。野球と同じくらい音楽が自分の中に根づいている。

「野球と音楽、それは自分にとってのヒーリング・メカニズムなんだと思う」。この時はまだジャズが聴かせてくれたビートがかっこいい、くらいにしか思っていなかったのだが、あの頃ももしかしたらいろいろ抱えていたのかもしれないと今だから思う。

 ☆ジャズ・チザム 1998年2月1日生まれ、バハマ出身。2015年にアマチュアFAでダイヤモンドバックスと契約。マーリンズ時代の20年9月にメジャーデビュー。24年7月にトレードでヤンキースに移籍。25年には31本塁打、31盗塁で自身初の「30―30」を達成。今季は棒つきのアメをくわえながら守備に就くなど、奔放な言動で話題に上る〝お騒がせ男〟の一面もある。180センチ、83キロ。