【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「たとえ1日だけのお泊まりだとしても、シェルターにいるより、人と過ごした方が犬にとってストレス軽減になるんだよ」

 それは人間も同じで、犬と5~10分間触れ合うだけで双方にオキシトシン(安心・信頼・つながりを感じる時に出る愛情ホルモン)が分泌され、不安やストレスが和らぐという。アリゾナ州立大などの研究にも基づき、近年では米国の多くのアニマルシェルターが数日、数時間でも犬を引き取れなくともシェルターから連れ出せる〝預かり制度〟を設けている。人と触れ合う機会があった犬の方が、引き取られる確率も高いのだとか。

 わずか数分の会話からも行動派だと分かるコール・アービン。「動物たちは特別な存在」と胸に手を当て、韓国リーグに行く前の3年間で妻のクリステンさんと2人でその制度を利用し、犬、猫、亀を合わせて65匹ほどの世話をしたと目を細めた。チーム移籍もあったため、住まいはオークランド、ボルティモア、ミネソタと転々としたが「何なら行き先に困っていた馬の新しい預かり先を、妻がオンライン上で見つけ出したこともある」くらい、その時の自分たちにできる支援をいつも探しているようだった。

 韓国リーグで過ごした昨シーズン、コールは野球人生最大のスランプに陥った。序盤は良かったが、途中から自分の投球を見失い、もがく中で異国の地の対応がやたら冷たく感じたことも。そんな時、救いとなったのが、月曜日のオフに数回通うことができた地元の孤児院の子供たちだった。

「最初に行った時のみんなの笑顔といったら…」。聞いているこちらが少しうるっとくるくらい、子供たちとの時間をうれしそうに振り返る。

「庭で遊んだり、角のアイスクリーム屋さんに連れて行ったり、ボードゲームをして遊んだり。ただただ一緒に時間を過ごしたんだ」

 子供たちにとって男性ロールモデル的な存在が少ないと後で知らされたそうだが、ましてやヒゲを生やした身長193センチの白人の野球選手だ。0歳から大学生までが生活する中、特に12、13歳の子供たちがコールに変な韓国語を言わせては大笑いしたり、キャッチボールをせがんだり。クリステンさんは仕事で帰米していたため、コールが主体となって子供たちのために動き、夏には70枚のチケットとバス数台を用意し、野球の試合に招待した。チームメートらの協力も仰ぎ、子供たちにたくさんのサインもしてあげた。

「僕ら夫婦はいずれ自分たちの生活が落ち着いたら、里親になったり養子を迎えたいと、ずっと心にあることなんだ」

 実際に孤児院に通うことで、子供たちが置かれている状況も少しずつ理解できるようになってきたという。子供たちとの絆が深まるにつれ、コールの野球も本来の姿を見せ始めた。孤独に感じていたわだかまりも薄れたシーズン終盤、チームメートがコールとともに孤児院を訪れてくれた。

「オ・ミョンジンって、若手の素晴らしい野手なんだけどさ。一緒にお店に寄ってお菓子をたくさん買い込んでさ。庭で遊んで、サインを書いたり。チームメートと最後にそんな時間を過ごせたことが、本当にパワフルだった。何人かの選手が、自分はただの野球選手だけじゃないって分かってくれた。僕は、自分がプレーするコミュニティーのことをとても大事に思っている」

 韓国を離れた今もその気持ちは変わらない。「子供たちの中に3人、野球をする子がいてね。夏にはベースボールキャンプに通えるように…」。彼らもまた、コールがメジャーで投げるのを熱烈に応援しているだろう。

 ☆コール・アービン 1994年1月31日生まれ、カリフォルニア州アナハイム出身。2012年、15年に受けたMLBドラフト指名で契約せず、16年の32巡目(全体967位)でフィリーズと合意。19年5月にメジャーデビュー。アスレチックス、オリオールズ、ツインズを渡り歩き、昨季は韓国プロ野球の斗山に所属。今春はドジャースとマイナー契約を結び、キャンプに参加した。193センチ、102キロ。左投げ。