侍ジャパンが世界一連覇へ向け、最初の大一番を迎える。日本は14日(日本時間15日)、米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークでWBC準々決勝のベネズエラ戦に臨む。大谷翔平(31=ドジャース)を擁する日本にとって、相手は豪華MLB軍団であるだけではない。政変後の祖国を背負い「リボーン・ベネズエラ」や「ネオ・ベネズエラ」を世界に示そうとする特別な熱量まで帯びた〝超難敵〟だ。

 今大会のベネズエラは、単なる強豪国という言葉では片づけにくい背景を抱えている。同国では今年1月に反米政権の急先鋒だったニコラス・マドゥロ前大統領が米国に拘束されて失脚し、副大統領のデルシー・ロドリゲス氏が暫定大統領に就任。同氏が暫定指導部の中核を担う新局面へ移行した。

 さらに今月には、2019年以来断絶していた米国との外交関係正常化に向けた動きも前進。対外的には関係修復へかじを切る一方で、国連調査団は旧体制由来の抑圧構造がなお残っていると警告しており、国内の空気はいまだ揺れている。

 そんな混迷の真っただ中で、ベネズエラ代表は米国開催のWBCに乗り込み、準々決勝まで勝ち上がってきた。しかも陣容はぜいたくだ。ロナルド・アクーニャ外野手(28=ブレーブス)、ルイス・アラエス内野手(28=ジャイアンツ)、サルバドール・ペレス捕手(35=ロイヤルズ)、エウヘニオ・スアレス内野手(34=レッズ)、ジャクソン・チョウリオ外野手(22=ブルワーズ)ら主力どころがずらり。1次ラウンドでも勢いを見せ、ドミニカ共和国との〝全勝対決〟には乱打戦の末に敗れたものの、D組を3勝1敗の2位で突破した。スター性、破壊力、身体能力のいずれを取っても、初対戦となる日本にとっては間違いなく今大会屈指の難敵だ。

 しかも、そのモチベーションは野球の勝敗だけにとどまらない。ベネズエラ系住民が多いマイアミでは、今大会でも球場の熱気が際立っている。WBC公式サイトは、ベネズエラ代表にとって今大会が「祝祭」であり、米国の地でも特別な意味を持つと報じた。国の分断や不安を抱える中で、代表チームは祖国の誇りを束ねる象徴になっている。侍ジャパンが相対するのは打線だけでも、投手陣だけでもない。国民感情の受け皿となったチーム全体の熱量だ。

 さらにMLB関係者の間では、こんな見解も聞こえてくる。今大会でベネズエラ代表が、渦中の相手・米国の地で悲願の初優勝を果たせば「マドゥロショック」に揺れた祖国へ世界の視線を引き戻し「リボーン・ベネズエラ」あるいは「ネオ・ベネズエラ」の姿を強く印象づけられる――。そう踏む政権周辺が「代表チームの快進撃を国のイメージ刷新へつなげたい思惑を抱いている」との情報もある。

 加えて初優勝を成し遂げた場合には、同国で最高の栄誉とされる「フランシスコ・デ・ミランダ勲章」の授与や報奨金を、選手、監督、コーチ陣へ用意する方向性との話まで浮上している。

 もちろん、グラウンドに立てば最後は野球で決まる。だが、短期決戦はしばしば数字に表れない「もう一つの燃料」が勝敗を左右する。大谷を軸に4戦全勝で東京ラウンドを突破したディフェンディングチャンピオンの侍ジャパンは、実力でも経験でも世界一候補の本命だろう。だからこそ怖いのは、相手が実力に加えて「祖国の再出発」という物語まで背負っていることだ。

 大谷のひと振りが空気を変えるのか。それとも「ネオ・ベネズエラ」を掲げる難敵が侍に重圧をかけるのか。マイアミの準々決勝は、野球の勝負を超えた濃密な一戦になりそうだ。